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4度の転職で見えた会社立ち上げのヒント――牧田恵里社長:tsumug historie

前回は、新卒でサイボウズに入社した後、倒産危機に陥った母の会社に転職し、母を手伝った20代後半までの会社員時代を振り返りました。連載最後となる今回は、会社員時代の経験を経て株式会社tsumug(ツムグ)を立ち上げるまでのストーリーと、今後の展望です。

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倒産後に転職したのは、当時勃興していたスマホアプリ

母の会社の倒産が決まり、私も職探しを始めたんですが、母の会社で経験した新規事業を立ち上げる楽しさが忘れられませんでした。その時の事業経験からアプリに可能性を感じていたので、自分で企画を考えていました。iPhone 3GSが登場し、Android端末も出始めたころです。

当時、CyberAgent America(以下、CAA)の立ち上げのタイミングで、アプリの企画を持ちこみました。「最初はゲームを作ってもらうけど、ゲームアプリで収益を出せるようになったら、そこから予算をとって自分のやりたい企画を提案してくといいよ。」と言われ、採用面談を経て、アメリカでチャレンジさせてもらえることになりました。

その後1年間はアメリカに滞在してひたすらゲームを作りました。

CAAではサービス企画にあたり「Fact Base , Best Practice」という基本理念がありました。既存のものの組み合わせで最適解を導くという方針です。私もそれにならい、CAAの「ゾンビレストラン」というゲームアプリから着想を得て「アニマルベーカリー」というレストランゲームを作りました。

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開発したアプリ「アニマルベーカリー」

当時、この業界ではGREEのようなゲームプラットフォームを作るのが主流で、CAAもそれ流れに乗っていましたが、プロデューサーとして売上を立てられなかったため、日本へ帰ることになり、作ったアプリもストアにはあるけど売上が上がらない"リビングデッド"状態になってしまいました。帰国してから半年ほどは「アニマルベーカリー」と「ゾンビレストラン」の運営を1人で担当しており、1人プロジェクトマネージャー状態でした。

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サイバーエージェント勤務時代の牧田(中央)

起業を見据え、不動産会社、VCへと転職

同時に転職活動をしていました。母親が自己破産しているタイミングでお金を稼ぐ必要もあったので、CAAを退職して不動産会社に入社し、投資不動産の営業をしていました。

当時の日本は不動産バブルで、海外の投資家が日本の投資物件をキャッシュで買いに来るような時代でした。その会社では、投資、売買、仲介と全ての事業があったので不動産業界のほとんどの業務フローに触れることができました。

久々の営業でしたが、お金を稼ぐためだけの仕事がどうしても辛く、半年ほどで退職しました。

また、物件の売買や賃貸、さらには投資販売や確定申告まで不動産業界の構造全体を見ていたので、いろいろと変えたいところが見えてくるんですよね。でもそれを変えようとすると業界の抵抗が強くて、これまでのネットベンチャーの世界とは全く違う、新しいものを生み出せないことへの歯がゆさも感じていました。

次に働いたのが当時まだ少なかったアクセラレータープログラムを運営していたベンチャーキャピタル(VC)のMOVIDA(モビーダ) JAPAN(現Mistletoe(ミスルトウ))です。

起業したかったので、「お金を学んだ次はVCだ」というノリでMOVIDAで働きました。このころは他にもいくつかのスタートアップをアルバイト的にお手伝いしていて、現在お付き合いのあるメルカリもその1つでした。

孫泰蔵さんとの事業立ち上げを経験

そのつながりで、MOVIDAの孫泰蔵さんとお会いする機会があり、「私は今までこんなことやっていて、起業したいんです」と話したら、「Entrepreneur In Residence(アントレプレナー・イン・レジデンス)っていう言葉があってね、起業を経験した人がVCで勉強する期間があるんだよ」と言われ、MOVIDAで本格的に働くことを決めました。正確には、起業して成功した人がVCになって次の準備することだと後から知って恥ずかしくなりましたが。

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MOVIDA JAPAN勤務時代の牧田(写真左)

MOVIDAを手伝う中で、泰蔵さんに自分が考えたアイデアをいくつかプレゼンして、泰蔵さんと一緒に、子供向けのスマートデバイスを作るPiccolo(現VIVITA(ヴィヴィータ))事業を立ち上げることになりました。当時、泰蔵さんと仕事ができたことは今の私の貴重な財産になっています。

ただ事業自体の構想がどんどん大きくなり、最終的には実現に数年掛かる事業になってしまったので、「自分の領域でやらせてください」と伝えて、2015年、泰蔵さんと投資家の小笠原治さんが立ち上げたハードウェア向け投資会社のABBALab(アバラボ)からの出資を受けて、tsumug(ツムグ)を立ち上げました。小笠原さんは現在、tsumugの取締役です。

物理鍵をなくしたい!

起業前、小笠原さんと話をしている時に「IoTすごい」と思ったんですよね。とはいえ、自分が全くわからない領域で勝負するのは怖かったので、不動産業界を選んで、そこにIoTを絡めて「物理鍵をなくしてみたい」と思ったんです。それが現在のTiNK(ティンク)という製品の開発に繋がっています。

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不動産会社にいた頃には、変わらない業界の体質を見てきましたが、IoTを活用すればパソコンやスマホを使いこなせない不動産業界の人たちにも受け入れてもらえるかもしれないという感覚もありました。だからこそ、IoTに可能性を感じていたんです。

起業にあたり、「スマートロックってがこれだけ出ているのに流行っていないのは、開発元が消費者しか見ていなくて、不動産業界の人たちが使いやすい形になっていないからだ。不動産業界の困りごとも解決するスマートロックを作り、物理鍵をなくしたい」と小笠原さんに伝えるとその思いに賛同してくれ、出資を受けて立ち上げに至りました。

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tsumugの製品「TiNK」について説明する牧田

これまでのキャリアでかなりの数の転職を、短いスパンで経験してきましたが、tsumugの事業は飽きる感覚は全くないですね。tsumugは鍵につながるサービスをいくらでも作ることができます。例えば子供の見守りや家事代行など。また、他社のサービスと連携すれば、宅内配送などを絡めたサービスも作ることができます。だから、新規のサービスをずっと作っていられるんです。

もちろん自分で立ち上げているのもあり、これまでのキャリアとは全く違ったタームにあると感じています。

仲間にも恵まれています。2017年6月ごろからメンバーが増え、現在では主要なチームメンバーだけでも20人、パートナー企業などのメンバーも含めると50人ほどの規模になりました。人が増えると、楽しさと同時に、素敵な仲間がいつかはいなくなってしまう寂しさも感じます。そんな先のことを想像して、入社のタイミングで一人悲しくなることもあります。

母の会社での経験は辛い記憶ですが、今は本当に仲間に恵まれ、支えられています。

理想の社長は「さくらインターネットの田中さん」

これまで自分がどんな社長になりたいかを考えたことはあまりありませんでしたが、最近、CES(アメリカのラスベガスで開催される世界最大の家電見本市)に出展した時、手伝ってくれてた大学生から「牧田さん、社長なのに何でそんな雑務やってるんですか?」と聞かれたんです。

その時に頭に浮かんだ理想の社長像が、さくらインターネットの田中邦裕社長でした。

田中さんは従業員やユーザーに寄り添いながら、時には自らイベントの受付をするような人なので、そんな風に一緒に働いている仲間やお客さんに感謝し続けたいです。

会社を経営することって、「会社という1つの人格を作る」イメージで捉えています。だからtsumugという人格をみんなに可愛がってほしいなと思います。

日本の会社は単体で事業を進めることが多い印象ですが、海外のメーカーはどんどんパートナーと組んで事業を推進していきます。1社でできることは少ないからこそ、たくさんのパートナーやチームメンバーの得意領域が紡(つむ)がれて広がっていけばいいなという願いをtsumug(ツムグ)という社名に込めました。

最初から自分一人でできることなんて少ないと思っているので、自分ができないことをやってくれる周りの人にはいつも感謝しています。だから腕に覚えのある方はもちろんですが、逆に、「自分一人でできることは少ない」と感じている人ともtsumugで一緒に働きたいと思っています。

夏に合宿した時、メンバーから出てくるアイデアが本当に面白くて「それすごい」「めちゃくちゃいいね」「tsumugってすごいね」と感動をそのまま口にしていたら、メンバーが「相変わらず他人事だな」と言われてしまいました。

他人事というわけではありませんが、自分にはない力を持ったたくさんの仲間たちがいるので、私はみんなに意思決定を任せて信じていられたらと思います。(終わり)

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