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IoTで日本の技術とマインドが広がれば世界は変わる:IoTプラットフォーム「Afero」CEO、Joe Britt単独インタビュー[後編]

株式会社tsumugコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」で採用しているソリューション「Afero」。米国の家電大手Kenmore社のエアコンに採用されたのは2年前のこと。今後は冷蔵庫や洗濯機、ドライヤー、食洗機、オーブンなど、対応製品が次々と出てくる予定です。

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CESでのKenmoreとTiNK

前編では、「Afero」のCEOであるJoe Brittさんに、創業までの経緯とプラットフォームとしてスケールするうえでのチャレンジについてお話しいただきました。

後半では、IoTにおける課題と日本のエンジニアへの期待について聞きます。

“デバイス1兆個時代”に向けたIoTの課題

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Joe Brittさん(写真左)とAferoチーム(提供:Afero)

Joeさんがここ数年間、Afero創業者としてIoTビジネスを進めていくにうちに、家電業界から多くのことを学んだといいます。
とくに、パソコンやスマートフォンと、IoTデバイスとの違いを意識することが重要だ、とJoeさんは言います。

「パソコンとスマートフォンはある意味同じです。キーボード、LCD、タッチスクリーン、大容量のストレージがあって、任意のプログラムが実行できます。プロセッサー、メモリの品質に若干の差はあるものの、パフォーマンスという点では大きな違いはありません。
家電量販店に行って、売っているパソコンを見るとしますよね。あるモデルが他のモデルより1000倍速いということはないでしょう。これらは基本的に同じように作られていて、同じたぐいの部品で構成されているので、製品はコモディティ化し、コストの削減が可能になっています」

他方、特定機能のみを実現するために作られたIoTデバイスは、汎用目的のパソコンとは違います。

ムーアの法則と同じことが洗濯機などの家電や、バイク用ロック・ドアロックなど用途を限定したデバイスで起これば、それは魅力的なことですが、いくつかの問題からパソコンやスマートフォンのようなコモディティ化は、IoTデバイスでは起こりにくいだろうとJoeさんは考えています。

「最初の大きな問題は”異質性”です。(IoTには)根本的に異なるエンジニアリング上の問題が存在します。
たとえば、モーターを何十年も効率的に動作させるために、板金を曲げてコーティングすることで、金属を腐食しないようにさせる技術があります。これらのノウハウは『Operational Technology (OT):運用技術』といってもいいかもしれません。
このように、特定の機能を実現するために作られた機械は、汎用目的のパソコンとは違います。それらを開発する企業には、何十年の経験の積み重ねがあります。
一例を挙げれば、エアコンを作る企業がなにか製品を作るとき、白紙の状態からはじめるわけではありません。前世代のエアコンから修正すべき最小限の項目を洗い出し、それを新世代のマシンに反映するのです」

また、厳格な品質管理(QA)が確立されていることから、すべてのプログラムを捨ててはじめからやり直したり、チップセットやコンピューティング・プラットフォームを変更してすべてをリセットすることは難しいとのこと。

ミッションクリティカルな制御機能を有するマイコンと、ユーザーインターフェイスを制御するマイコンを分けるのも、その一例だといいます。

ムーアの法則はIoTデバイスにはメリットが薄い

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Afero開発ボード modulo-2。低消費電力と低コストを追求している。(提供:Afero)

Joeさんはさらなる課題として消費電力とコストの問題を挙げます。

「ムーアの法則はプロセッサーのメモリ容量拡大には寄与しましたが、バッテリー技術という点では何の進歩もありません。画期的なバッテリー新技術が出るまでは、高性能なコンピューティングハードウェアを詰め込んだIoTデバイスを、長い時間バッテリーで駆動するのは難しいでしょう」

ムーアの法則については、「どのようにして演算能力を倍増させるのか」という文脈においては興味深い議論ではあるものの、コストに厳しいIoTデバイスの価格低下には、必ずしもつながらないのではないかということを、いままでのAferoの経験から感じているとのことです。

「たとえばドアに小さいセンサーを入れて、それらをできるだけ安価にしたいとします。
もしも無限に使える魔法のバッテリーがあって、最新・最高性能のハードウェアの採用を決めるとしますよね。そのとき考えるべきなのは、そもそも以前から使っていたマイコンの価格はいくらだったのでしょう?ということなんです。(新しいハードウェアの)価格は従来の価格と比較して決めるべきだと思うのです。

でも、ムーアの法則では(性能は上がっても)価格はそのままなんです。必ずしも(最終製品の)価格が下がることを意味していないのです」

ITバックグラウンドをもつエンジニアとして、IoTの最も大きな課題は「ITプロフェッショナルのコンフォートゾーン(=心理的に安心できる領域)から抜け出すこと」だとJoeさんは言います。

「コモディティ化と規模によってコストが低下する」という従来のITのアプローチではなく、「デバイスがすべて異なる」という前提での新しいやり方を模索しなければならないのです。

日本発のテクノロジーとマインドセットに憧れた学生時代

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Aferoオフィスの会議室。壁には東宝のポスターが。(提供:Afero)

「高校時代のことをよく覚えています。同級生の父親が日本で仕事をしていたのですが、あるときウォークマンを持って帰ってきました。カセットケースと同じサイズで、それは驚くほどよく作られていて、今まで見たことがない小ささでした」

Joeさんが多感な時期を過ごした1970年代から80年代、クールな技術は常に日本からやって来ていました。今も日本の技術とメーカーの大ファンだといいます。

「だいぶ前から、日本の方と仕事をする機会がありました。当時のPHS端末を持ち帰ったこともあります。PHS対応の公衆ネットワークサービスはアメリカにはありませんでしたが、私の家にはPHS対応の親機があり、PHSを子機として使っていました。日本から持ち帰ったPHS端末は本当に小さくて、とても素敵なコードレスフォンだったんです」

編注:PHSは屋外では基地局に接続し、企業や家庭ではコードレス電話の子機として利用可能だった。

技術、IT、製造において日本企業のスキルは突出しているのはもちろんのこと、「文化的な観点からみても、日本人は人類をより良くするアイデアに常にオープンですね。Aferoの多くの社員が日本と数多くの深いつながりをもっていますよ」とJoeさん。
それだけに、日本の製品を通じて、日本市場にAferoのソリューションを届けることができることが楽しみでならないといいます。

日本のIoTエンジニアへの熱いメッセージ

最後に、Joeさんに日本のエンジニアに対する熱い想いを語ってもらいました。

「マインドセットと技術。両方の観点から、日本のエンジニアは世界に勝てる立場にあります。日本の技術的遺産と文化的マインドセットは、IoT分野において日本を確実な地位に導くことでしょう。

パソコンやインターネットを語るとき、今まで変化したことは何でしょう?(技術は常に変わりますが)人やエンジニア、マインドセットは変わらないのです。
日本のエンジニアは、IoTを単なる機会と捉えるのではなく、世界全体に大きな影響を与える立場にありことを忘れないでください。いいですか、日本だけじゃないんです。

『世界に勝てる』と言ったのは、日本のエンジニアが(IoTの)何かを考えるとき、それが何百万人、何十億人もの人々に大きな変化を与えるのだということです。それが、あなたのモチベーションになるはずです。

IoTとは単にあなたの中で解決するものではなく、また単に製品を指すだけの言葉でもありません。それをどのように世界中に波及させるのか、そしてパワフルなマインドセットをどのように世界全体に広げることができるか、ということなのです」

文・写真:菊地 仁

通信会社勤務。2014年より2018年2月まで米国シリコンバレーオフィスにてスタートアップ各社との協業など、事業開発・商品開発業務に従事。趣味はIoT開発ボードの収集だが、日本に戻ってからは時間を確保できないのが悩み。

「Afero」CEO、Joe Britt単独インタビュー前編はこちら

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