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ちょまどさん「今の多くのIoT製品はかわいくない!」──ガラ空きの女性向けIoT市場に求められる視点とは

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スマートスピーカーを始め、IoT製品は、人々の生活の中に少しずつ浸透してきています。一方で、心から欲しいと思えるような製品はまだまだ少ないのが現状かもしれません。女性目線に立った製品開発やサービス間連携、プラットフォーム戦略など、これからのIoT市場に必要な視点とは何でしょうか?

官民協力でIoTやAIを活用したプロジェクトのサポートに取り組むIoT推進ラボと経済産業省が9月18日に開催したイベントでは、5人の女性パネリストがこれからのIoTのあり方を語りました。

パネリストは、マイクロソフトのエンジニア兼漫画家の千代田まどかさん(以下、ニックネームの「ちょまど」さん)、家事代行サービスを提供するタスカジの和田幸子代表取締役 、tsumug(ツムグ)の牧田恵里代表取締役、タレント兼tsumugエンジニアの池澤あやかさんです。モデレーターはDMM.make AKIBAコミュニティ・マネージャーの上村遥子さんが務めます。

セッションの前編はこちら

IoTで解決できる生活の不便、ボタン1つでも生活が大きく変わる

IoT、広くはITを活用することで解決できそうな生活課題にテーマが移ります。ITを活用した「タスカジ」というサービスによって家事代行を手軽に依頼できる環境を実現した和田さんは、こんな事例を紹介しました。

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タスカジ代表取締役社長の和田幸子さん

「(家事代行を依頼した際)よく起きるのが洗剤切れです。ハウスキーパーさんに掃除をしてもらっても洗剤がなくなることがあり、『買っておいてください』とハウスキーパーさんに言われますが、そもそも忙しくて家事をできないから代行を依頼しているわけで、洗剤1つ買いに行く時間だって見つけにくい。で、買うのを忘れて次の週、また次の週と、結局1ヶ月くらい洗剤なしで掃除をお願いする、ということが続いてしまうわけです」

そんな状況の解決策になりうるのが「Amazon Dash Button(アマゾンダッシュボタン)」です。ダッシュボタンは商品それぞれのボタンを押すだけでAmazonに商品を発注できます。家主(Amazonのユーザー)自身でなくても、ボタンを押すだけで発注できる点が新しいと、和田さんは指摘します。

タスカジでもECサイトのデータを共有できるようになれば、さらに便利な未来が訪れます。ECサイトでの注文や発送情報などをタスカジや家事代行者が共有できれば、代わりに商品を受け取ってもらったり、受け取った商品を開封して棚にしまってもらったりと、より幅広い対応が可能になります。和田さんはタスカジで今後そうした流れを作っていきたいということです。

理想の生活実現の鍵はサービス間の連携強化

ちょまどさんが「究極の理想を言うと、私は帰ってすぐに寝たいんです。帰宅して鍵を開けて、部屋に入って、服を脱いで洗濯機に入れて、シャワーを浴びて、ちょっと掃除してとか、本当は何もしたくない。そうしたルーチンを全て取り払いたいです」と、理想の生活を語ります。サービスやハードウェアの連携が進み、夢のようなノンストップのソリューションが提供されればそれも可能かもしれません。

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マイクロソフトのエンジニア兼漫画家のちょまどさん

また、IoT、ITが働き方に貢献する点についてtsumugの牧田さんは「tsumugで自由度の高い働き方が可能なのはインターネットのおかげ」だと話します。

tsumugでは社員ゼロ、リモートワーク主体の働き方で活動していて、キャンプ場で仕事をするエンジニアもいるとのこと。PCとネットさえあればどこでも仕事をできるためです。

また、tsumugが開発するコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)シリーズ」にはタスカジのような家事代行サービスとの連携メリットも考えられます。

TiNKはネットを介してワンタイムキー(一時的に使える鍵)を発行できるため、例えば家事代行者に対して、仕事の間にワンタイムキーで家に入ってもらい、家事代行をお願いすることができます。物理鍵の場合は鍵の受け渡しを行う必要があり安全面にも不安が残りますが、TiNKではその必要もなく遠隔操作で事足り、セキュリティ的にも安心です。

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tsumugのエンジニアで、タレントとしても活動する池澤あやかさん

その延長で「宅配ボックスが埋まっている時にワンタイムキーの発行ができたら家の中に荷物を運んでもらえて便利かもしれませんね」と池澤さん。続けて牧田さんも「アメリカでは冷蔵庫の中に生鮮食品を入れてくれるようなサービスもあるしね」と紹介すると、ちょまどさんが「知らなかった!」と驚き、会場からも感嘆の声が。

コネクティッド・ロックのプラットフォームが色々なサービスと連携するようになると、便利な世界が訪れることになり楽しみです。牧田さんは「人々の生活課題を解決する肝はサービスなのだと最近すごく感じる」と話します。tsumugでは実際に他のサービスと連携しやすくなるように開発しているそうです。

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tsumugの牧田恵里代表取締役

オープンプラットフォームでハードウェアは世界とつながる

牧田さんはTiNKについて、「ハードウェアというよりもコネクティッド・ロックのプラットフォームを作っているという意識」だと述べていますが、同じようにプラットフォーム作りの重要性を感じる例を上村さんが紹介しています。

DMM.make AKIBAの入居企業の一つであるno new folk studio(以下:nnf)は各種センサーとLEDを内蔵した靴「Orphe(オルフェ)」を手掛けています。

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センサー内蔵の靴「Orphe(オルフェ)」

最初の製品は各種センサーや回路などを備えた靴そのもののプロダクトでしたが、第二弾のプロダクトでは、靴に装着することを想定した機能コンポーネントに軸足を移しています。それが「ORPHE TRACK(オルフェ トラック)」で、Orpheから靴をIoT化するための基幹部分だけを抜き出したものです。ORPHE TRACKを通してプラットフォームを靴メーカーに提供し、メーカーが自社の靴に組み込んで使うことが可能です。メーカー各社は自前で靴のIoT化の技術を開発しなくてもいいわけです。IoTプラットフォームを他社が利用できるようにすると、様々な連携が生まれますし、メーカーの垣根を超えた共通プラットフォームとなり、ユーザーにもメリットが出てきます。

nnfは実際に、MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)と連携し、歩くことでポイントが貯まるというサービスの実証実験を行っています。この企画は、nnf代表取締役の菊川裕也(きくかわ・ゆうや)さんの「歩いたらお金が貯まるといいよねぇ」という話から始まったそうです。

「最初にこの話を聞いた時、そんな事ができるのかという斬新なアイデアへの驚きと同時に、確かに実現出来るかもしれないという期待感を持ったことを覚えています。靴がIoT化され、たくさん歩くことができてその人が健康だということが分かれば、健康保険料だって下げられるかもしれない」(上村さん)

靴から得られるデータを他のサービスで活用することで、様々な世界に広がる可能性があります。IoTは、ハードウェアを開発するだけでなく、プラットフォームをオープンにすることで、思わぬレベルにまで世界が広がる可能性があるのです。

女性目線のIoT市場に商機アリ

「女性目線のIoT市場には、まだまだ参入の余地があることを知っていますか?」と上村さん。「女性向けIoT製品って聞かれてすぐに出てきますか?」 とパネラーに問いかけると、池澤さんから資生堂、パナソニックと、意外にも次々とメーカー名が出てきてしまい笑いが起こります。

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とはいえ、実際、女性向けのIoT製品が少ないことは事実でしょう。

ここで「パネラーで面白いアプリケーションを作っている人がいる」と上村さんがちょまどさんのアプリを紹介します。ちょまどさんはセブン-イレブンのスイーツが好きで毎日食べているそうで、マイクロソフトのMR(Mixed Reality)ゴーグル「ホロレンズ」でのぞくとカロリーが表示されるアプリケーションを開発しています。しかも「『Activate Safemode』って言うと全部0カロリーになるんです」と、セーフモードにするとカロリーがなかったことになる機能まで実装しているとのこと。

ちょまどさん本人は「くだらないものだから」と苦笑いでしたが、食べ物をスマートフォンのカメラでのぞくとAIがカロリーを表示してくれる、というのは、精度が高ければかなり便利でしょう。

また、タスカジの和田さんはそもそも家事に困っている女性の問題を解決するためにサービスを立ち上げていて、女性向け市場がガラ空きだということに同意しています。

和田さんは、タスカジ立ち上げまでに多くの人に意見を聞いたそうですが、女性と男性ではサービスに求めることや使い方など様々な点で違いがあることを指摘します。

「男性の多くは、家事代行が可能な人の一覧から誰に頼むか自分で選ぶことを面倒臭いと感じます。ボタンを押したらそれなりの人が適当に来てくれればそれでいいと。一方で女性は依頼するにしても色々とこだわりがあるので、自分で合う人を選びたいと考えます」

和田さんは女性の意見を取り入れ、ユーザーが自分で家事代行を依頼する人を選べる形を採用することに決めたそうです。

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女性と男性の違いとして、和田さんは買い物も例に挙げています。

「男性はお店に入ったら自分の目的の商品の所に一直線に行って、買ったらそのままお店をすぐに出ると言われますよね。女性の場合は、お店に入ったら端から見ていって、全部をチェックし、欲しいと思ったものを買って帰る。しかも、帰り際にもまた全部見ていく」

目的の物を買いに行く、というよりも、情報や商品を見ることそのものを楽しんでいる部分があるわけです。タスカジのユーザーには、検索結果を毎日見て、将来頼む際には誰にするかを考えるのことを楽しみにしている人もいるそうです。まだ実際には一度も頼んでいなくても、シミュレーションだけでも楽めるのです。

「男性が女性に向けてテクノロジーを使った事業をする場合、まずは全く異なる価値観を持った人たちがいる、ということを受け入れる必要があると思います。」と和田さんは話します。

また、話はIoT製品の見た目に移ります。

ちょまどさんはスマートスピーカーを6台持っているほどのスマートスピーカー好きですが、かわいい見た目の製品がLINEの「Clova Friends」しかないことに不満があるそうです。スマートスピーカーに限らず、「IoTデバイスって、自分の生活圏内に置くものじゃないですか。でも置きたくなるような物がないんですよ」と述べ、逆にデザイン性にこだわりのある製品として芳香剤を挙げました。

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牧田さんは「性別の違いによる嗜好性の違いはそれほどないのでは?」 としつつも、男女の考え方の違いについては、tsumug取締役の小笠原治(おがさはら・おさむ)さんの言葉を借りて言及します。小笠原さんは投資ファンドABBALab(アバラボ)の代表でtsumugにも出資をしていますが、その投資先には女性経営者が多いとのこと。男性経営者との考え方の違いについて小笠原さんは「女性の起業アイデアは課題解決型が多く、それが投資判断につながることがある。つまり、女性は定性的にサービスを考える人が多く、男性の多くは定量的に考える」と感じているそうです。最終的にはどちらのニーズにも深掘りしたサービスがどんどん生まれて欲しいと牧田さんは話します。

最後に上村さんは「多くのスタートアップが新しいテクノロジーで生活課題や地域課題、社会課題の解決に取り組もうとしていますが、普及するのはごくわずかです。スタートアップと大企業が一緒に手を取り合って作っていけると、もっと面白い時代が早く来るのかなと思います」とセッションを締めくくりました。


文:長田卓也 

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