「つくる人」と「つかう人」のこだわりを追求する

tsumug edge

hackfonをつくった美谷さんの頭の中をのぞいてみる:Makerのアタマの中

新しいモノを生み出す人たちの頭の中はどうなっているのだろうか。 そんなことを知りたくて、Makerにものづくりの発想についてtsumug edge編集部がインタビューする連載を始めました。

第1回は、hackfonの開発をしている美谷広海(みたに・ひろうみ)さんです。
hackfonは、家デン(家の電話機)をIoTのコントローラーに変換することのできる製品。使われなくなった電話機でIoT機器をコントロールできます。

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hackfonと、それを開発している美谷広海さん

実はものづくりは苦手だった

――よろしくお願いします。経歴を拝見して、気になったんですけど、ご出身はフランスのマルセイユなんですよね。

美谷広海(以下、美谷) 本当はベルギーとの国境の近くにあるリールというところなんですけど。4歳くらいのときにマルセイユに引っ越してきました。

海外で育ったことは自分の考え方に影響を与えていると思います。たとえば僕にとって、中国の深センに行くのは大阪に行くの同じくらいの感覚だし、フランスのパリでも沖縄ぐらいの感覚なんです。だから、他の人よりもフットワークは軽いほうだと思いますね。

――そのフットワークの軽さを活かして、世界を飛び回りながら、仕事をしているとお聞きしました。

美谷 そうですね。世界中をいろいろ飛び回りながら、仕事をしている感じですね。去年は1年の半分くらいを海外で過ごしていました。

――でもそのすべてが、ものづくりに関することというわけではないですよね? 美谷さんはこれまで、どのようなものづくりと関わってきたんですか?

美谷 実はものづくりに直接関わったことは、全然なかったんです。小さいころから、ものづくりに憧れはあったんですけど、手を動かすのは苦手だったんで。
たとえば小学生のころ、ミニ四駆を軽量化しようとして肉抜きしすぎちゃって壊す、みたいなことばかりしていました。

あと、望遠鏡をつくることに憧れていた時期もありましたね。学校の図書館に「望遠鏡の作り方」という本があって、ずっと読んでいたんです。でも、レンズを磨く粉や、ガラス板をどこで買ってくればいいかが分からなくて結局ジーッと眺めるだけで終わっちゃいました。
大学もロボットをつくりたくて理工学部に入ったんですけど、1年生のときは実際に手を動かすことが少なくて、2年生になるときに環境情報学部に転部してしまったんです。

――そうなんですか。僕としてはものづくりのルーツみたいなエピソードを期待していたんですが……。

美谷 すみません(笑)。どちらかと言えば企画やマーケティング畑を歩んできたんですよ。大学卒業後はゲームメーカーに就職したんです。ゲームの企画やアプリのマーティングをやっていた時期もありましたね。
4年前にCerevo【*1】に移ってからも、海外向けのセールスとマーケティングを担当して、海外の展示会で商品をアピールするような仕事をしていました。そして、今の会社(FutuRocket)を立ち上げたんです。

――そのFutuRocketってどんな会社なんですか?

美谷 自社で製品開発をしながら、国内外の企業の日本進出や欧州進出を支援している会社です。そして、これから売り出そうとしている製品が、今回の「hackfon」というわけです。

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FutuRocketのマスコットキャラクター

電話機がIoTのハブになる

――hackfonはどういった製品なんですか?

美谷 hackfonは、アナログの電話機を「IoTリモコン」に変えることのできる、いわゆる変換器です。
仕組みとしては、電話機を操作するとサーバーにコマンドが送られて、IoT機器が操作できたり、(Amazonのダッシュボタンみたいに)Webサービスと連携したインターフェイスとして使えるようになっています。

hackfonデモ

――アナログの電話機を使うというのがおもしろいですね。この発想はどこから生まれたんですか?

美谷 友達と「最近、家の電話、使っていないなぁ」という話をしていたんです。そう言えば、家にある電話が置物になっているなって。
その使われていない電話機を使ってなにかできないかな、と思ったのがきっかけです。

――これってどんなシチュエーションでの使用を想定しているんでしょう?

美谷 家庭では、いわゆる「スマートホーム機器」と言われる家電などと接続して、たとえば照明をコントロールしたり、電動カーテンを動かしたりといったことを想定しています。うまく組み合わせられれば、床暖房やエアコン、換気扇などといった、とにかくあらゆる電化製品を操作できる。

オフィスでは、社員番号とあるコードを組み合わせて、その番号を押すと出退勤を記録できたり、プロジェクトの時間計測をしたりといった使い方ができるんじゃないかと思っています。

――これまでのお話を聞いていて、スマートフォンやスマートスピーカーじゃダメなのか? と思ったんですけど……。

美谷 電話機を使うということは、スマートフォンやスマートスピーカーと違って、電話機は学習コストがゼロなところが魅力だと思っています。
たとえば一部のおじいさんやおばあさんは、スマホは使えないけれど、電話機なら使ったことがあると思います。だからおばあさんでも、電話機のボタンを押すだけで、LEDライトの色が変えられるし、オフィスで働いている孫に「いま家に帰ったよ」というメッセージを送るなんてこともできるわけです。

――なるほど。少し、イメージできてきました。

美谷 他にも、たとえばUberのような車配送サービスをお年寄りが呼べるかというと、難しいですよね。
hackfonから設定できれば、ボタンを押すだけでUberに迎えに来てもらったり、時刻指定なんかもできる。場合によっては、コミュニティーバスなんかも呼べるんじゃないでしょうか。そういった意味で、将来ニーズがあるんだろうなあと思っています。

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――なるほど。他に電話機であるメリットってありますか?

美谷 値段が安くて、どこでも売っていることも魅力でしょう。世界中の国で電話機の値段を調べているんですが、この前行ったドバイでも2千円くらいでした。
そして、電話機の仕組みが、枯れた技術であるところもいいと思っています。

――どうして枯れた技術だといいのでしょう?

美谷 最新の技術じゃなく、ありふれた枯れた技術を組み合わせることによって、新たなおもしろいものが生まれることがあるんです。そこに魅力を感じています。
hackfonの仕組みってすごくシンプルなんです。まず、電話機のトーン信号をhackfonの中でデジタル変換して、Wi-Fiを通してサーバーに送る。その後、サーバーからIoTの機器にアクセスする仕組みなんです。

――このhackfonは、Yahoo!JAPANが主催のハッカソン「Hackday」で開発したのがスタートだと聞きました。

美谷 そうなんです。Hackdayで開発したプロトタイプが元になっています。
実はこのハッカソンのときはアルコールドリブン(お酒の力)で、ワイワイガヤガヤしながら、開発したんです。乾き物をつまみながら、缶酎ハイを煽って開発という感じで……。
そんな状態だったんですけど、Hackdayが終わって改めて見てみたら、これはけっこう魅力的な製品になったじゃないかって。ひょっとしたら、CES Innovation Awards*2】なんかも狙えるんじゃないかと思ったんです。

それに加えて、中国の会社がマネをしなさそうだとも思ったですよね。だから、会社(FutuRocket)をつくって、チャレンジすることにしたんです。

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一人の力ではなく、みんなの力を合わせて

――企画や開発とかをやっていて、いきなりデバイス(もの)をつくってみようというところに行き着くというのがおもしろいですね。

美谷 ハッカソンを通して、いい仲間に巡り会えたのが大きいですね。
実はYahoo!JAPAN主催のHackdayに参加する前に、バンダイナムコが主催したハッカソンで、hackfonを開発する主要メンバーと出会ったんです。ゲームを制作している人だったり、システムインテグレーターだったり、いろいろなスキルをもったメンバーがそこに集まったんです。
そのハッカソンでは、ポンプの操作でシューティングゲームができるコントローラーを作ったんですが、それが楽しくて、今でもつながっています。

――自分自身ではできなくても、仲間を集めれば、ものづくりはできるということですか?

美谷 そうですね、誰かとコラボレーションすればものづくりはできるんです。ハッカソンで自分一人では作れれない、だけど誰かと一緒になることで、製品を生み出せるということを学びました。

――僕はものづくりをしたことがない素人なんですけど、どやったらモノを生み出すことができますか?

美谷 うーん、技術に近づいて、やってみる努力はすごく大切だと思うんですよね。
僕もプログラミングはできないけど、パラメーターをいじったり、スクリプトを足してみたりはするんです。
わからないと言ってなにもしないんじゃなくて、レーザーカッターを使ったりハンダづけをしてみたりとか、とにかく近づいてやってみることが大事だと思います。

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世界のものづくりを知る

――さきほど、世界中を回りながら仕事をしていると言っていましたが、その中でも中国の深センにはよく行っているようですね。

美谷 hackfonの基板は深センでつくっているので、工場を見に行ったりしています。深センに最初に訪れたのは、2016年にニコ技深セン観察会*3】に参加させてもらったときです。

――最初に行ったときは、どう感じました?

美谷 とにかくおもしろかったんです。もちろん、華強北の電気街【*4】もおもしろかったんですけど、工場の内部見学がとくに興味深かったです。

――一方でフランスにも頻繁に行っていますね。なせでしょうか?

美谷 フランスのハードウェア・スタートアップに勢いを感じているからです。
はじめて僕が参加した2015年のCESでは、フランスのスタートアップが100社も出展していたんです。その年、日本のスタートアップは5社も参加していなかったですから、すごい差ですよね。
今でもフランスは勢いがあるんですけど、オランダ、イタリア、台湾も存在感が出てきています。

――いろいろと世界を見て回っているんですね。

美谷 これだけ回っていると、世界中で同時多発的に起こっている変化に気がつくことができるんです。
たとえば、日本ではDMM.make AKIBAのようなコワーキングスペースにハードウェアスタートアップが集まっていますよね。日本でこういう場所がつくられたのって、ここ数年だと思います。
ただ、世界中を回っていると、北京でも、パリと同じくらいのタイミングで同じような場所ができていることに気がつくんですよ。
いち早く、世界で同時に起こっている変化に気がつければ、変化からアイディアを生み出すことができます。だから、いろいろな国に行くということを大切にしたいと思っているんです。

――世界で同時多発的に変化が起こっているんですね。逆に日本と世界の違いも感じますか?

美谷 日本では、価値観の多様性がないと感じています。日本のベンチャーキャピタルはどこも同じようなところを評価するんですよね。
海外を回っていると、評価するポイントがバラバラでおもしろいです。日本で評価されていないものが、海外に行くと評価されたりとか、違う見方をしてくれるんです。

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今後目指すもの

――最後に、美谷さんは今後どこを目指していくのか聞かせてください。

美谷 今後はFutuRocketの売り上げは大きくしていきたいですね。でも、社員は僕一人だけでもいいかもしれない。小さな会社だからこそ、イノベーティブなものづくりができると思うんです。
マイクロスタートアップ、オフィスなしの会社として、世界を飛び回りたいと思っています。

――今日はありがとうございました。


世界中を飛び回り、変化を貪欲に取り入れる。美谷さんのフットワークの軽さが印象に残りました。
また、ハッカソンのワイワイガヤガヤした中から生まれたアイデアが、製品となり、世界に出て行くところにおもしろみを感じました。
hackfonが世の中に出たら 、IoTを操作するインターフェイスがどのように変化するか楽しみですね。

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文:藤井 武

ライターを目指すSier勤務のエンジニア。IoT分野はただ今勉強中。tsmug edgeに関わりだしてから、家に深セン発の怪しいガジェットが増えた。中華製デジタルアンプがお気に入り。

*1:株式会社Cerevo……2008年に設立された自社ブランドのIoT機器を開発・販売する会社。ベンチャー企業でありながら、子会社をPanasonicに売却するなど、業界で存在感を示す。「攻殻機動隊 S.A.C.」に出てくるロボット、タチコマを1/8スケールで再現した製品が有名。

*2:CES Innovation Awards……CESは、毎年1月にラスベガスに開催される世界最大の家電見本市。その中で、優れた製品や技術をCESイノベーション・アワードとして表彰する。表彰は28のカテゴリーごとに行われる。カテゴリーは毎年更新される。

*3:ニコ技深セン観察会……深センのイノベーションとエコシステムを体験しに行くイベント。ホテルや飛行機は自前手配、感想をインターネット上にアップすることが参加条件。

*4:華強北の電気街……深セン市にある世界最大級の電気街。家電・電気パーツ専門店が入居するショッピングセンターが立ち並ぶ。

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