「つくる人」と「つかう人」のこだわりを追求する

tsumug edge

あのゲーム機も、あのカメラも……ブランドを「色」で支える武蔵塗料の技術力:IoT女社長、牧田がゆく

株式会社tsumug(ツムグ)が提供する「TiNK(ティンク)シリーズ」では、通称「tsumugグレー」と呼ばれる独自のカラーが採用されています。 今回は、塗料において圧倒的な技術力をもつ武蔵塗料の福井 裕美子社長とtsumugの牧田恵里社長が、tsumugの色についてのこだわりについて話しました。

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tsumugの牧田恵里社長(左)と武蔵塗料の福井 裕美子社長(右)

塗料は100%オーダーメイド。武蔵塗料の色づくり

福井 私たちが最初に出会ったのは、ちょうどtsumugさんが1個めのサンプルのモックを作るところでしたよね。

牧田 そうです、そうです。スタートアップなので、資本調達やいろいろな説明の際には、1個ちゃんとしたプロトタイプが必要だと思っていたんです。まずは「最高の1個を作ろう」ということで武蔵塗料さんに相談させてしたのがきっかけですね。

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TiNKの初期プロトタイプ

牧田 武蔵塗料さんの入間の工場にも行って、実際に色を作ってもらいながら決めていきました。色もいいし、触り心地もいいし、素晴らしい出来です。

福井 うちの塗料は100%オーダーメイドなので、「この中から色を選んでください」という感じではないんです。デザイナーさんや設計さんとお話ししながら進めていく。

たとえば「グリーン」と言っても、1万通りくらいあります。日本塗料工業会が出している塗料用標準色という色見本帳のガイドラインがあり、その番号を指定してもらえればまったくその通りに作ることはできるんです。

でも、色があってもマットな質感、ツヤ出しなどさまざまで、見てもらわないと決めることはできないんですよね。

牧田 1万通り……!すごい。実際に塗料をお願いするまで、こんなに色がたくさんあるというのも知りませんでした。見分けるのも大変そうですね。

福井 最後は「色検査員」という職種の者が、目で見て確かめます。光の加減で微妙な差が出るので、画面や機械ではできないんですよね。

牧田 その後に量産品を検討する段階で、再度お願いしてデザイナーの上町が入間に伺って「tsumugグレー」が完成したんです。

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tsumugグレーで塗装された現在のTiNK

福井 デザイナーさんがいらっしゃると、調整もしやすいし、本人のイメージから色のイメージもわきやすいんですよね。

「地味な世界だと思っていた」ITから塗料メーカーへの転身

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福井 私自身もこの業界に入るまでは、世の中にそんな色に対するこだわりがあるって知らなかったんですよ。

牧田 tsumugの色を決めるときも、TiNKプロダクトデザイナーの上町が「使うときの光加減はこうだったらこっちの色かもしれない」とこだわっていて新鮮でした。福井さんは、塗料の前はIT業界にいらしたんですよね?

福井 3年くらいITベンチャー企業に勤めていました。
そのときの世の中ってIT、IT、ITってとにかく流行っていて、でもまだパソコンをもっている人も少なくて、「結局ITってなんなの?」という時代だった。なので興味本意でIT業界に入りました。

まだまだ今のような体制はできていなくて、ECサイトに商品を出してテキストを書いて、買ってもらったらメールを送って、というようなことをひたすらにやっていましたね。

牧田 すごい、本当に立ち上げ期のお話ですね。そこから武蔵塗料に入って、どれだけ感覚が変わりました?

福井 それはもう、お湯の中から冷凍庫に入ったくらいに変わりました(笑)。朝が自由なIT業界から、8:30に工場に行ってラジオ体操をする生活に。

牧田 最初は一社員として?

福井 そうです、工場で。ただ当時社長だった父と同じ場所にいるとどうしても喧嘩をするので(笑)、途中からは中国の中山工場に2年間駐在してました。もう右も左もわからない状態でしたね。

牧田 以前にお話を聞いたときに、あるときから「モノづくりすごい!」って思うようになったと仰っていたじゃないですか。あれってどんなタイミングだったんですか?

福井 塗料って、基本的には作ろうと思ったらお鍋とミキサーのようなものがあればできるんですよ。でも、こだわりがすごいんです。それがわかってきたときから、すごいなって思い始めました。

塗料の配合だけじゃなくて、塗る膜の厚さによっても20ミクロンとか40ミクロンとかのレベルで色は変わるんです。そういうことを日々積み重ねていて、私には同じ色に見えるのに、「今回は赤がちょっときついよね」「そうだね」って。

かつ量産となると2000万台とかをすべく同じ色で塗り上げる。かっこいいなあって思いますね。

牧田 すごいスキルですよね。色を作り上げるプロセスって、通常どんなふうなんですか?

福井 早くても、色を作ってお客様から承認をいただけるのにだいたい一ヶ月くらいかかります。自動車だと4年くらい、飛行機だと8年くらい。とにかくサンプルをたくさん作って、多い時だと1日に16回くらい調整したりしますね。

牧田 そんなに時間がかかるんですか?

福井 色はデザインの観点だけではないんです。たとえば車は何年も使われるもので、その人の命も預かるわけで、人を殺す武器にもなりかねないですよね。
運転しているときにちょっと傷がついて、その傷が気になって触っていたら事故が起きた、ということは起きてはいけない。
何年たっても傷がつきづらい、色が劣化しない、有害な物質が出ないようなことが塗料にも求められるんです。

牧田 なるほど。それを実現できるのがすごいです。

福井 うちの開発者は本当にサクッと作ってしまうので、みんな天才かなと思っています(笑)。
お人形の靴を小さい子どもが間違って飲み込んでしまわないように、塗料でなんとかできないか、というご相談をいただいたこともあったんですが。

牧田 舐めると苦いような塗料を作るとか?

福井 そうです。でも、先に挙げたように色へのこだわりもあって、色味が変わってしまってはこまる。
だから透明の苦い、かつ口に入れてしまっても害のない塗料を作ったんです。

牧田 すごいなあ。

福井 その他にも、tsumugさんにも使って欲しいような静電気対策の帯電防止塗料とか。形状記憶メガネのようにぐにゃぐにゃ曲がっても割れない塗料とか。
でもみんな職人気質だから、マーケティングが下手なんです(笑)。いいものを作るんだから、日本にも世界にも、もっと広めていきたいですよね。

モノづくりには人の命を預かる責任を伴う

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牧田 世界といえば、海外拠点の工場もいくつかありますよね。これは海外のマーケット向けなんですか?

福井 現状では海外にいる日本のメーカー向けです。海外では指示通りの色を作ることはできるんだけど、新しい色を生み出していくことはまだできていなくて。

牧田 研修の難しさというところですか?

福井 それもあるんですが、海外だと塗料に対する高い要求が少ないというのが大きいです。海外だと安いコストで大量生産するのがメインなので、安い塗料を使う。でもそうするとすぐ色が剥げちゃったり、ベタベタになったりして、そこで初めてうちにたどり着いてくれるんですけど。
もっと売り込むことをしていきたいですよね。

牧田 聞けば聞くほどすごい技術の話が出てきますもんね。モノづくりの価値を高めて、もっと海外に出せるようにしていきたいです。

福井 日本はノウハウはすごく溜まっているけど、買う人(マーケット)が少ない。海外の人口の多いところではバカバカ物が売れている。すごくもったいないと思ってます。

牧田 スタートアップでも「安く早く」が主流ですけど、私は塗料にこだわることを推奨したいですね。一点ものでいいから、お金かけてすごくキレイなものを作ったほうが、説明材料になるし、作る側のイメージも固まる。

福井 そのほうがお客さんがつきますよね!

牧田 私、一番初めに鍵デバイスを作るときにいろんなエンジニアさんや工場に見積もり依頼を出したんですけど、一人のエンジニアさんがすごく高い見積もりを出してきて。高いですって言ったら、「鍵を作りたいんですか?それともオモチャを作りたいんですか?」って言われたことが今でも印象に強く残ってます。

ハードウェアを作る以上、直接的にも間接的にも人を殺してしまう可能性があるんですよね。何十年も、人の暮らしや命を預かる責任のない、こだわりのないプロダクトは作ってはいけないなって思いました。

福井 私、よく美大なんかにも行くんだけど、いい作品を作ったらもっと塗料にもこだわってほしいって思う。海外、スタートアップ、アートとどんどん広げていきたいです。

「塗装で困ったら武蔵塗料へ行け」圧倒的な技術力とは

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福井 一般的に塗料メーカーは、色を作って出荷したらあとはご自由にお使いくださいということが多いんです。でも、実際には塗る技術が難しいんですよ。組み立て工場に塗料を渡したら全然違う色になってしまったということがよくある。
思い通りの色を出すには、塗る厚さ、温度、乾燥の温度や湿度、とにかくいろんな条件があるんです。

うちの他社と違うこだわりとして、社員が世界中どこでも行って塗り方を指導します。それ込みだからちょっと高いんだけど。

牧田 でもちゃんとした色が出て、何年も保つなら長い目で見て絶対安いですよね。

福井 そう、その良さをどれだけ相手に伝えられるか頑張らないとね。製造を長くやっているところでは、「塗装でトラブルが起きたら武蔵塗料」ってわかっていただいているんですが。

牧田 DMM.make AKIBAでも、モノづくりに携わってきた人はだいたい武蔵塗料さんを知っています。

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細かな凹凸もきれいに表現できる塗料と塗装技術

福井 車のセンターコンソールという運転席の横にある部分なんかによく使われる、レザーのような加工はシボ加工っていうんですが、これ実は塗料で出しているんです。

牧田 え!そうだったんですか、すごい!

福井 白いプラスチックにうちの塗料を塗ったらレザー調になるんですよ、すごいでしょ?(笑)

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シボ加工可能な塗料をプラスチックに塗った様子

福井 さまざまな加工ができる塗料を塗ることで、ただのプラスチックが和紙調にも陶器調にもグラス調にもなるんです。何度見てもすごいなって思います。

牧田 職人さんは、世の中にあるものだいたい再現できちゃいそうですね。 

福井 うちの職人たちは「なんでも作れるから、アイデアをくれ」って言うんです。なので、もっと作りたい人に利用して欲しいですね。

牧田 モノづくりは面白いから、私は女性にももっと参加して欲しい。

福井 そうですよね。男性と女性では気づきの視点が違うから、男性社会だと同じ方向ばかりにいってしまう。欲しい人は女性が多いのに、作り手は男性のほうが多いんですよね。

牧田 女性は課題解決型で製品を作ることが多いので、向いていると思います。技術を活かすためにも、モノづくりに視点の違う人がもっと入ってきて欲しいと思っています。

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普段あまり着目することのない塗料ですが、ものすごい技術とこだわりが込められていることを知ることができました。

意外と知られていない塗料の話。今後スタートアップをする方々も、本体の設計だけではなく、ぜひ塗料にもこだわってほしいと思います。


文:ちゃんとく(dotstudio)
写真:山﨑悠次
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