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おもしろそうと思ったらなんでもやってみるのがいい。牧田社長が語る起業家ビジョン:東京理科大学登壇レポート

コネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」を開発しているtsumug代表取締役の牧田恵里。彼女は東京理科大学の卒業生でもあります。 ここでは、そんな牧田社長の母校で行われた講演の様子をレポートします。

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久しぶりの母校凱旋

9月某日、牧田社長は約10年ぶりに母校の東京理科大学キャンパスに足を運びました。その目的は、経営学部の1年生が中心に受ける「起業家招待講演」という授業にて、学生向けの講演を行うこと。

「やばい、緊張する! 母校で講演するのが夢だったんです」

授業開始の45分前、建物に入って開口一番、興奮ぎみに語る牧田社長。開始10分前、担当者との打ち合わせを終えて、授業を行う教室に移動すると、学生たちもどんどん増えていく模様が目に入りました。

この授業はかなりの人気科目のようで、教室はあっという間に満員に。聴講する若者たちの期待感が伺えます。

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『鍵=安全』とか、今当たり前に信じられている価値観を変えていきたい

授業開始のベルが鳴り、講演がスタート。担当教員から「日本では珍しい、起業家として活躍している女性です」と紹介され、教壇に立ちました。

まずは学生に挨拶をするも、学生たちの返答は声のボリュームが少々控えめ。その反応に応えるように「今の反応も若干薄めだったように、理科大の卒業生って、アクションを起こす人が少ないという印象をもたれているんですね。だから、私も理科大卒っていうと驚かれることもあります」と、母校の印象を語りました。

そして、自己紹介代わりに、ティザー動画を流して自身が開発しているデバイスの説明を開始。


【TiNK】#もう許してあげない編 キーシェアリング機能

「『TiNK』というドアの鍵をつくっていて、単体でLTE通信する電子錠なんです。スマートフォンが扉に付いているイメージで、リアルタイムで鍵の情報を変えられる。今見てもらった動画のように、彼氏が合い鍵を持っていても、ケンカして追い出した瞬間に、リアルタイムで情報を削除して入れないようにもできるんです」

このデバイスを思いついたのも、恋人とのトラブルに巻き込まれたという、自身の経験からだったとか。

「合い鍵を渡していた彼氏が、別れた後も鍵をコピーしてずっと持っていたので、知らない間に家に不法侵入されていたことがあるんです。どんなオトコと付き合ってたんだって話ですけど(笑)。そのとき、コピーされていたことも知らなかったし、いつ侵入されたのかもわからなかった。

ちょっとソファーの位置がズレてるとか、レシートの束がなくなるという現象があって。そういった違和感って、たとえばTiNKであれば誰が何時に入ったっていう記録が残るので、ある意味可視化できるんですけど、物理鍵ではそれはできないじゃないですか。なのに物理鍵を使うことで安全だと思っているのって、どうなんだろうと思ったんですね。『鍵=安全』とか、今当たり前に信じられている価値観を変えていきたい。そう思ったのが、この会社を立ち上げたきっかけでした」

この生々しい告白に、ざわざわし始める学生たち。この反応に手応えを得たのか、徐々に緊張がほぐれ、トークの熱量も上がっていきました。 f:id:sofkun:20181110152247j:plain

会社をつくったのは「母が死にそうだったから」

次に話したのは、現在の会社を立ち上げるまでにたどったキャリアについて。

「高校生のころに宮大工にあこがれて就職したかったんですけど、母から『大学は出てほしい』と言われて。それで理科大の建築学科に入ったんですね。私が大学3年生のとき、資本金1円で会社がつくれるようになった。40歳で起業をしていた母が『あんた、1円でいいんだから会社をつくってみなさい』って言われて、そのとおりに会社を登記したのが、起業家としてのスタートでした」

“学生起業”という一見華々しいキャリアに見えますが、そこから一転、悲劇が起こったといいます。

「1円で会社をつくったのはいいけれど、とくに目的があったわけでもなかったので、それはそれとして普通に就職活動をしようと思っていたんです。でもその就活が始まる時期に、母が末期がんだとわかって。ステージ4で、あと1週間で死ぬ。そう言われてからは、母の会社を手伝うしかないと思って頑張ってたんですけど、母はなんと2ヶ月半で社会復帰するまでに回復したんです。私はというと、その母の会社を手伝ったときに自分の業界知識のなさとスキル不足に課題を感じてしまって。だからインターネット業界のサイボウズという会社に新卒で就職しました」

しかし、この後また母親の会社に合流することに。

「母の会社が5億の負債を負ったんですよね。だからそのタイミングでまた手伝いに入って新規事業開発を担当しました。結局母親の会社は、リーマンショックのあおりを受けて20億円で倒産しました。そのときの母親の連帯債務をなんとか返済し、その後ソフトバンクの孫正義さんの弟で実業家でもある孫泰蔵さんの紹介でベンチャーキャピタルで修行。そして、今の会社を起業したという流れです」

この辺りは、当メディアのtsumug historieにもっと詳しく載っているので、ぜひ読んでみてください。 f:id:sofkun:20181110152336j:plain

学生との一問一答

この後も、「スタートアップとはなにか」「日本の会社のイメージを変えたい」「日本とアメリカの起業文化の違い――アメリカでは20億の負債を抱えたことは大きなチャレンジと前向きに捉える――」「孫泰蔵さんとの出会いはまるで“黒船”と出会ってしまったような感覚だった」などの話をしました。

しかし、その後の質疑応答の時間では、1年生がメインの授業とあって、まだ自分の将来像が見えていないのか、学生たちからはキャリアに関する質問が多く投げかけられました。

ここからは、学生との質疑応答の様子をレポートします。 f:id:sofkun:20181110152411j:plain

起業したのときの将来のビジョン

――大学生で起業をされたとき、なにか実現したいビジョンがあったんですか?

牧田 正直なにか目標があったというよりも、起業すること自体が、つまり1円で会社をつくることだけが目的だったんですね。「絶対にこれがやりたい」という目標がなかったので、あんまり長く続かなかったと思っています。

不動産業で得た経験

――就職先をベンチャーキャピタルと不動産を選んだとのことでした。これらの環境ではどんな経験を得ようとしていたんですか?

牧田 不動産を選んだ理由は、母親の借金を返すためでした。ちょうど(第一期の)安倍晋三首相が誕生する少し前の時期で、日本の不動産の価格が一気に上がったタイミング。海外の投資家が、「予算2億なんだけど、いい物件はないか」って探しに来るような状況だったので、お金を稼いで借金を返そうと思ったんですね。

この時期はお金のためだけに働いていたので、毎日「お金!お金!お金!」って考えていて、考えることはそれだけ。そのとき、自分にとってお金のためだけに働くのは苦痛だと気づいたんです。不動産の世界なので、大きなお金を扱うことはよくあったんですけど、あんまりおもしろくない。借金を返した後は、お金だけじゃない働き方ってなんだろう?って考えて、孫泰蔵さんのベンチャーキャピタルに行った。なぜベンチャーキャピタルかというと、起業の準備という意味合いがあったんですね。

起業の原動力

――話を聞いていて、牧田さんの行動力がすごいと思いました。自分は、なにかやりたいこともないので、その原動力がどこから湧き出てくるのか不思議に感じます。

牧田 それはですね、そのときどきでいろいろな人に出会うことで、「これをやってみないか」って仕事が降ってくるんです。(孫)泰蔵さんと会ったときに、「母が起業して倒産して、20億の負債が…」って話をしたんです。普通だったらそんな話をすると引かれることが多いんですけど、彼は「それはすごいね」って言ってくれた。「うちに来たらいい仕事あるよ、起業家が起業準備の期間だけベンチャーキャピタルで働く”アントレプレナーインレジデンス”っていうのがあってね……」って。 そのときは知らなかったんですけど、過去に起業を経験した人が、ベンチャーキャピタルで修行をして、また起業するっていう文化があって、それを勧められたんですね。

出会った人からなにかを提案されたとき、それを調べて、やってみることで、順々にいろいろな体験ができる。そこからヒントが見つかることもあるのかなと思います。

――自分がやりたくないことでも、チャレンジしてみるのが重要ってことでしょうか。

牧田 いや、イヤなことだったらやらなくていいけど(苦笑)。ちょっとでも興味のあることに首を突っ込んで見るのはどうかな? たとえばゲームが好きだったら、ゲーム業界の会社に飛び込みで行ってみるとか。ゲームやIT業界は若い人に優しいお兄さんたちが多いので、話に行ってみたり、ツイッターで連絡をとってみるとかもいいと思いますよ。

ちなみに、私の今の旦那さんは、テレビで見て、Facebookで検索して、メッセージを送ったことがきっかけで結婚しました。頑張れば、テレビに出てる人とだって結婚できちゃうんです(笑)。

大学で学んだことはその後役に立っているのか

――宮大工にあこがれて建築学科に入ったとのことですが、大学で学んだことが、その後の起業などにいきたことはありますか?

牧田 宮大工って、釘を一切使わないで木を組み立てる伝統工法なんですよね(組木)。木をキレイに削って、しゅーっと組み合わさる瞬間や、木がハマってつくられる空間が好きだったんです。 でも大学に入ってからは、そっちのほうではなくて建築物の構造について学びました。構造を専門的に学ぶと、つぶしがきくんです。 たとえばIT業界に入ってインターネットの構造を見たとき、私には建築の構造が近いかたちにイメージできました。人によっては難しいというインターネットが、すごくわかりやすく見えた。それを応用していまは鍵のデバイスをつくっています。回り回って、理科大で学んだことがいきてきた、と。

理科大って専門的な領域を学べるいい大学だと思っています。私のときは、「入るのも難しい、出るのも難しい。平均卒業年数5.5年」といわれていたけど、今もそうなのかな?そうだったら、入学する人たちはみんなある程度、好きなことがある人たちなんですよね、きっと。

勉強してる最中や、就職するときに意味がないと感じても、どこかで回り回ってくるんじゃないかなと感じています。そう思って勉強すると、少しはやる気が出るかもしれませんね。

人と会うときに心掛けていること

――牧田さんがいろいろな人に会ってきたなかで、人と出会う際に心がけていることはありますか? 自分から飛び込んでいくのは、ちょっと自信がないです……。

牧田 30歳までは、自分の領域を固めずに「来たものを打つ!」っていう精神でやってきました。(孫)泰蔵さんと出会ったのも、別の会社から「広報の仕事をやってくれない?」って言われて、2つ返事で行ったのがきっかけ。

それと同じタイミングで、メルカリの前身の会社からも仕事を頼まれていて。社長の山田進太郎さんとは同郷なので、よく会ってたんですよ。それで進太郎さんから「フリーマーケットに行って、女の子にアプリのヒアリングをしてほしい」って頼まれた。「ウチは男のエンジニアしかいないから、フリマに行っても女の子が逃げちゃう」って言うんです。

そういった頼まれた仕事は全部受けて、いくつも掛け持ちしていた時期がありました。あのとき、もし社員になってたら、上場したメルカリの株でどれだけ稼いでたか……っていうのは冗談ですけど、頼まれたらやってみることで、いろいろなチャンスに巡り会えると思います。

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起業するときに最初にやるべきこと

――起業したい思ったとき、最初にやるべきことはなんでしょうか? 

牧田 25万円の登記費用を持って……っていうのは冗談で、領域によりますね。どんなサービスをやりたいと思っていますか?

――そこも決まっていない段階です。仲間を集めるのか、アイデアを練るのか、あるいはセミナーに出るのか、ビジネススクールに通うのか。

牧田 全部アリだと思います。私の場合は、ハードウェアをつくりたかったんですが、モノをつくるのって、すごくお金がかかるんですね。今、300億円もらってもすぐに使っちゃう自信がある。お金がかかる領域なので、私の場合は最初、会社を立ち上げる前にお客さんを探しに行きました。自分のイメージする製品を買ってくれそうな人を。

IT、ウェブサービス、アプリ……なんでも同じだと思うんですけど、実際にプロトタイプをつくってみて「これ、使ってみたい?」「いくらだったら買う?」っていう聞き取り調査をやりました。

買ってくれそうな人がいるとなったので、会社をつくった。まずは自分で100万円を入れて3ヶ月間、資金が尽きるまで、プロトタイプをつくりました。そのあとにつくったものを、買ってくれそうな人に見せに行って、実際に買ってくれることになったので、あとはお金と人を増やしてスケールさせようと思って投資を受けた、という流れです。

最初から「鍵」をつくろうと思っていたのか

――会社を設立するとき、アイデアは最初から「鍵」だったんですか?

牧田 そうです。当時、私より先にスマートロックをつくっている会社が3社くらいあったんですね。この業界はもっと伸びると思っていたのに、あんまり使われてないから、不動産会社や管理会社にヒアリングをして。理由を聞いて回ったら、今から新規でつくっても、まだ先行の会社を追い抜けそうだと思って、チャレンジすることにしました。

新しい働き方は日本ではやりらくないか

――会社員として雇わずに業務委託にしたり、会議を誰でも見られるようにするなど、新しい働き方を進めるにあたって、固定観念の強い日本でやりづらくはないのでしょうか。また、うまくやっていくコツはありますか?

牧田 今の日本って、実はなにかを変えるのにとてもいいタイミングだと思ってます。昔は「従業員雇用が当たり前だ」と言っていた経済産業省が、今ではスタートアップをサポートする制度をつくっているわけで。

もちろん、新しいことを受け入れない人もいます。きっと「給料はビットコインにしましょう」と言っても、ほとんどの人は「え…!?」ってなるでしょ?でも最近は、話が通じる人も増えていて、「仮想通貨、今上がってるもんね。おれもちょっと買ったわ」っていうおじさんもいる。どんどん話がしやすくなっています。

――そういったタイミングを見極めるのが大切ということですか?

牧田 いや、タイミングを見極めるのって難しいので、やっちゃえ!としか言えないです。そういう意味では、大学時代は人生のなかでもリスクが少ない時期だと思うので。おもしろそうと思ったら、なんでもやってみちゃうのがいちばんいいと思いますよ。

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この質疑応答の最後に、「インターンをしたい人はぜひ応募してください」と連絡先をモニターに映した牧田さん。授業の終了後にも、インターンを希望する学生が何人も直接話をしにきていていました。 「アクションを起こす人が少ない」(牧田さん談)という理科大の学生たちにも、なにか響くものがあったのでしょうか。

もしかすると、今回インターンに挑戦した学生のなかから、将来tsumugにジョインして活躍する人も出てくるかもしれません。

文:森祐介

毎日ウルトラ怪獣Tシャツを着ているフリー編集/ライター。インドネシアの新聞社、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。政治・社会、アイドル、スポーツなどの仕事を主に担当しています。

写真:山﨑悠次

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