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元カレの不法侵入、起業で借金完済した母、創業資金は副業で──女性起業家、創業のリアル:明星和楽2018 Summer

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2018年9月15日(土)、16日(日)に開催された「明星和楽2018 Summer」では、「女性起業から考えるこれからの価値」と題したセッションで、福岡や東京で活躍する女性起業家やスタートアップの役員が、起業のきっかけや資金調達のリアルを語りました。

登壇したのはtsumug(ツムグ)の牧田恵里(まきた・えり)代表取締役、スマートメディアの成井五久実(なるい・いくみ)代表取締役。やむを得ない事情でnyansの谷口紗喜子(たにぐち・さきこ)代表取締役の登壇が叶わなかったため、セッション直前のピッチイベントに登壇したムスカ代表取締役で暫定CEOの流郷綾乃(りゅうごう・あやの)さんがピンチヒッターを務めました。また本セッションを企画した西南学院大学の学生で、コギコギの取締役でもある波止紗英(なみとめ・さえ)さんも急遽ファシリテーターとして登壇。和気あいあいとした雰囲気でセッションはスタートしました。

元カレの不法侵入がきっかけでtsumugを起業

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写真左:tsumugの牧田恵里代表取締役、右:スマートメディアの成井五久実代表取締役

牧田さんのtsumugは、秋葉原発のIoTスタートアップですが、現在は、明星和楽の会場となった福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」に拠点を置いています。tsumugはセキュリティシステムとつながるコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)シリーズ」を開発。鍵の領域を拡大することでセキュアなシェアリングエコノミーの世界の実現を目指しています。メルカリが2017年2月に福岡市で実証実験をスタートし、2018年8月には国立市にもそのエリアを拡大したシェアサイクル「merchari(メルチャリ)」にもその技術が採用されています。

「起業のきっかけは、学生時代に付き合っていた元カレに、自宅に不法侵入された経験からなんですよ。付き合っているとき、知らない間に合鍵を作られていて、別れた後に無断で自宅に入られたんです。それまで物理鍵は安全だと思っていたけど、実はそんなことないな、とそのときに気づいて。なので今は、『TiNK(ティンク)』という安心安全な“通信する鍵”を作っています」

起業後わずか1年3ヶ月で3億円のエグジット、成井さん

成井さんは大学卒業後にディー・エヌ・エー(DeNA)に入社し、その後トレンダーズを経て28歳で起業。男性をターゲットにしたウェブメディア「JION」を立ち上げます。そして立ち上げから1年3ヶ月でその事業をPR会社のベクトルの関連会社に3億円で売却。超短期間でのエグジットは注目を集めました。現在は「JION」を運営する株式会社JIONのCEOと、ベクトル社の持つウェブメディアを統括するスマートメディアの代表取締役を務めています。

「ベクトルは男性向け、女性向け、そしてママ向けやティーン向けなど全世代的をカバーする10媒体を運営しています。10媒体を合わせるとトータルで月間で2億くらいのページビューがあります。これはある外資系の大手ニュースメディアと同じくらいの規模ですね。スマートメディアではこの10媒体の運営に関わっています。タイアップ広告やCMS事業、そしてアドテクノロジーが得意分野です」

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写真左:ムスカの流郷綾乃代表取締役、暫定CEO、右:コギコギの波止紗英取締役

昆虫を活用した究極のバイオマスシステムを構想するムスカ暫定CEOの流郷さん

流郷さんは企業での広報業務を経て、フリーランスでスタートアップやベンチャー企業を中心としたPR戦略に関わるようになります。現在はベイシズの執行役員を務め、インセクトテクノロジー(昆虫技術)ベンチャーのムスカに「暫定CEO」として出向しています。ムスカはイエバエの幼虫を使って、家畜の糞や生ゴミのような有機廃棄物を1週間で品質の高い肥料や家畜の飼料に変える技術を持っています。これまで家畜の糞は2~3ヶ月かけて堆肥にするほかありませんでしたが、ムスカ独自のイエバエの卵を植えつけるとわずか1週間で肥料にすることが可能。卵から生まれたハエの幼虫やサナギは良質なタンパク源として家畜のエサに活用することができます。

「このシステムを使えばゴミから2つの資源が生まれる、究極のバイオマスシステムが実現できます。そしてこれは動物性たんぱく質の不足による食糧危機の解消につながるんです。しかしこれは普通のイエバエでできることではありません。ムスカのイエバエは45年の歳月をかけて1100世代の交配をくりかえした独自のイエバエ、いわばイエバエ界のサラブレッドなんです。インセクトテクノロジーも頭文字を取るとITですよね。なので私はインセクトテクノロジーを“新しいIT”と呼んでいます」

「なぜ『暫定CEO』という肩書きなのか、とよく聞かれます。これを説明するのにはすごく時間がかかるんですが……私から『暫定』が取れることはありません。今ムスカではCxO(CEOやCFOなど企業経営に関する各分野の責任者のこと)を募集していて、私のミッションは広報戦略などを通じて次のCEOを早く探すことだからです。創業者はイエバエに命をかけているので、彼を支える経営陣がムスカには必要なんです」

本セッションでモデレーターを務めた波止さんは現役の大学生。福岡の学生スタートアップコミュニティや明星和楽の実行委員会でも中心的な役割を果たしています。さらに波止さんはこの日、シェアサイクル事業を展開するベンチャー企業のコギコギで、学生ながら取締役に就任することを発表しました。

「日本にもいろいろなシェアサイクルのサービスがあるなかで、私はコギコギが半端なく面白いと感じています。コギコギのサービスは単なる移動手段ではなく、観光などのコンテンツとつながっているからです。コギコギは福岡以外に東京、京都、鎌倉・湘南で展開していますが、それぞれの街で新しい発見ができるようなサービスを展開しています。最初はインターンとしてジョインしたのですが、関わっている間に『取締役になればいいじゃん』と言われ、先ほど取締役就任の記者発表をしてきました」

成井さんと牧田さんはともに母親が起業家だった

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自己紹介だけでもトークが盛り上がる中、中心となった話題は、なぜ今の生き方を選んだのかということ。成井さんは20代の間にとにかく起業することを目標にしていたそうです。そのバックグラウンドにはご両親の影響が大きくあったとのこと。

「私は父母が両方起業家でした。父は自分の持つ土地を使った事業を展開していたのですが、中学二年生のときバブルが崩壊。そして父の会社は倒産。多額の負債を抱えてしまいました。しかし母がカウンセリング事業を立ち上げて、その借金を2年間で完済したんです。そういう経験から、女性でも自分の能力を磨いておくことが大事だと感じ、自分でも起業したいと考えるようになりました」(成井さん)

成井さん同様tsumugの牧田さんも、起業には母親の影響が大きかったと言います。

「うちの母も事業に失敗して20億円の借金を抱えたんです。日本では20億円の借金と聞くと大変に思われますが、米国で働いているときにその話を同僚にすると反応が違ったんですよ。『お前のお母さんは20億円のチャレンジをしたんだろ? すごい!』って褒められたんです。母は日本で債権者集会で落ち込んでいたのに、私は米国で褒められていい気分でした。日本では、失敗を過剰にネガティブにとらえてしまいがちですが、そうではない見方を感じたことが、今につながっています」(牧田さん)

「働きやすい環境を突き詰めた結果」が起業だった

流郷さんが独立を選んだ理由は働き方にこだわった結果でした。

「女性の働き方改革って、いかに働きやすい環境を作るかということだと思っています。私はシングルマザーなのですが、独立を選んだのは子供がいたからですね。企業の社員として働いていると、どうしても休みたいときに休めなかったりしますよね。子どもの運動会にも行きそびれたりして、成長過程を見られないって悔しい思いをしたんです。忙しいときは2~3ヶ月ずっと単身で東京にいて、週末だけ子供に会いに戻ったりしていたんですよ。さすがにこれはまずいと思ったので独立を選びました。今は家族全員で東京に引っ越して一緒に暮らしていますが、そのときに育児を手伝ってくれていた母にも仕事を辞めてもらって一緒に住むことにしたんです。あなたの分も私が稼ぎますから、と約束して。私にとって働きやすい環境を突き詰めたのが今の環境ですね」(流郷さん)

女性起業家の資金調達のリアル

質疑応答では、福岡市のグローバル起業家育成プログラム「Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA」に参加する女性から、資金調達についてアドバイスが求められました。成井さんからは起業のきっかけ、そして起業の初期段階であるシード期の調達について自身の経験から語りました。

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「起業は自分の強みと市場のニーズの掛け合わせだと思っているんです。私の起業のきっかけはプレスリリースを書くこと。仕事として企業のプレスリリースを書いていたのですが、ある時知り合いのスタートアップの社長から個人的にプレスリリースを書いてって頼まれたんです。なので休みを使って1時間でプレスリリースを書き上げて渡したら、それで15万円ももらえたんです。そこで私には1時間で15万円を稼ぐ能力があるんだって気づいたんです。そして私にはDeNA時代の営業の経験もあった。じゃあこの能力を使ってなにか起業できないか、と考えながら市場を見ると、キュレーションメディアを立ち上げるニーズがそのときあったんです。しかも、男性向けのキュレーションメディアはまだなかったんです。これが28歳でJIONを立ち上げたきっかけですね。イニシャルの創業資金はプレスリリースを書く副業で稼ぎました」(成井さん)

「シード期の調達は私にはイージーな印象ですね。今はスタートアップでもバリュエーション(時価総額)として1億円の評価がつくことは当たり前と言ってもいいかもしれません。私は個人で借金する勇気がなかったので、当時のバリュエーションの10%の額と株式の10%を交換して資金を調達しました。調達先はDeNA時代の先輩や飲み友達です。まずは知り合いベースでドヤ顔でプレゼンするしかないと思います」(成井さん)

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牧田さんはシード期の資金調達について成井さんに同意しつつ、ビジネスモデルを確立するシリーズA、ビジネスを拡大するシリーズBの難しさを語りました。

「tsumugはシリーズBの資金調達を目指す段階なんですけど、この段階になるとロジックやその根拠をシード期以上に強く求められるようになります。今までは全部自分含めた少人数で考えてやってきたけど、この段階になると自分の苦手な範囲が増えてきてます。ここからは加速するための判断として、自分でできないことが得意な人をチームとして巻き込んでいく必要がでてきます」(牧田さん)

資金調達視点で見るシード期のPR戦略

流郷さんはシード期の広報戦略の重要性を指摘しました。

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「資金調達という視点でも、シード期のPR戦略は重要です。日本では投資家を説得するとき、マスメディアに取り上げてもらった実績はまだ効果が大きいです。その分野についての専門的な知識を投資家は持っていないことが多いのですが、その際はメディアに取り上げてもらった実績が判断材料の一つになるんですよね。この前、オランダのインセクトテクノロジー企業がシードマネーで57億円を調達しました。ここと戦うにはそれを超える調達額が必要で、私もいろんなところを駆け回っています。PRが専門の私が暫定CEOを務めている理由はここにもあるんです」(流郷さん)

これまでの議論を踏まえた上で、女性起業ならではの資金調達の話題に。女性だからという理由での障壁はまだ存在するようです。その理由の一つとして牧田さんは、男性が投資判断をすることが多いことを指摘しました。しかしその状況も、少しずつ変化してきているようです。

「tsumugは毎年『CES』(米国で開催される世界最大のテクノロジー見本市)に出展していて、現地で投資家と話をすることもあります。そのときに海外の投資家から、自分たちの投資資金の20%は経営陣に女性がいる企業に出資することにしていると聞きました。こういう流れがスタートアップが女性の積極採用を考えはじめたことにつながっているのかもしれません」(牧田さん)

「投資家にとって同じ能力値のスタートアップが横並びになったとき、どこに投資するか考えると、やっぱり目立つところに資金を入れたいと思うはずなんです。経営者が女性というのは目立つポイントになりえるはずと勝手に思っています」(成井さん)

男性にとっても女性にとっても起業ほど楽しい仕事はない

あっという間にセッションも終わりの時間に。最後に波止さんは、セッションのタイトルである「女性起業から考えるこれからの価値」とは何かを問いかけました。

「女性起業家だから、と思ったことはありません。今日私が話したことは、女性としてではなく経営者としての視点からなんです。起業は、自分のやりたいことを実現する手段として誰もが使えるものです。女性だからできないということはないのでぜひ挑戦してほしいと思います」(牧田さん)

「私たちも仲間が増えてほしいと思っています。女性ももっとどんどん起業してほしいですね」(流郷さん)

「起業することで自分の行動が価値を生んで、市場から反応が返ってくるようになります。自分の一挙一動が巨額の富を生むかもしれないし、リスクにもなりうる。この可能性に気づけたのは大きいですね。サンフランシスコで女性起業家の活躍を見てきて感じるのは、日本の女性は自分に対する信頼感や期待感が低い気がします。やりたいことがあっても自分にはできないと思ってしまいがちです。ただ男性にとっても女性にとっても起業ほど楽しい仕事はないと思います。起業は見えない山を登るようなもの。一つの山を登ると次の挑戦が見えてきます。私は自分の挑戦が次の人の力になるような人生を歩んでいきたいと思っています。一緒にがんばりましょう!」(成井さん)

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起業のきっかけから資金調達までリアリティのある議論が交わされたこのセッション。最後は勇気をもらえるような力強い言葉で締めくくられました。


文:香月啓佑 写真:宮崎ひびトウユウジ

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