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【抄録版】孫泰蔵×小笠原治対談──いまコネクティッド・ロックに期待するワケ:tsumugに寄り添う人々

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左:孫泰蔵さん、右:小笠原治さん


スタートアップの立ち上げにはさまざまな支援者の存在が不可欠です。今回はtsumug(ツムグ)を創業前から支え続けている起業家の孫泰蔵さんと投資家でtsumug(ツムグ)の小笠原治取締役の2人に、tsumugの事業への期待や成長の可能性についてお話を聞きました。本記事は対談の抄録版です。全文版はこちら

日本を代表する実業家の1人である孫泰蔵さんは、tsumugの牧田社長がかつて務めていたMOVIDA JAPAN(モビーダ)の創業者でもあり、2人はそこで初めて出会いました。

孫さんはYahoo! JAPANの立ち上げに関わったのをはじめ、数多くのビジネスを支援し、数々の事業投資を成功させてきたシリアル・アントレプレナーとして知られており、現在はMistletoe(ミスルトウ)のファウンダーを務めています。

同じ頃、牧田さんは小笠原さんが立ち上げたABBALab(アバラボ)も手伝っていました。小笠原さんは、現在tsumugの取締役として、コネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」の開発を支援しています。

“シェア”を作る鍵――「TiNK」の可能性とは

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tsumugが開発するコネクティッド・ロック「TiNK」(左:室外機、右:室内機)

── お2人はこれまで数多くのスタートアップを支援していますが、tsumugを支援すると決めた理由はなんだったんでしょうか?(以下、敬称略)

孫泰蔵 一番の理由は、tsumugが開発しようとしている“コネクティッド・ロック”というアイデアに魅力を感じたからです。

多くの人たちが鍵に対して持っているイメージは、プライバシーや財産を守るためにロックして中に入らせないという、セキュリティのための道具というものだと思います。逆にコネクティッド・ロックは、入れたい人を入れるための道具というように、鍵そのものの考え方を見直す可能性を持っています。

たとえば、現在の家は血縁や信頼できる人たちだけが住むのを前提にした間取りになっているので、リビングやキッチンをセミパブリックにしてパーティや勉強会を開いたり、空いてる部屋をAirbnbで貸し出したりしようと思っても、鍵の受け渡しやセキュリティの確保が面倒でした。電子的な鍵であればその時の用途に合わせて、入れたい人たちだけに鍵を提供できますし、利用し終わったら使えないようにもできる。

家以外にも、会社や公共施設などあらゆる場所で同じようなことができるようになれば、空間の使い方や考え方そのものが大きく変わる可能性があります。さらにtsumugが開発しているコネクティッド・ロック「TiNK」はソフトウェアやサービスを組み合わせて社会の仕組み全体を変えることもできると思っています。

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Mistletoe創業者の孫泰蔵さん

スマホで開け閉めだけじゃない

小笠原治 tsumugを手伝いたいと思ったきっかけは孫さん同様、TiNKという製品に魅力を感じたからです。一番のポイントはこれまでのスマートロックのようなスマホで開け閉めするだけの電子錠ではなく、スマートな生活をするための製品にしようとしているところです。なのでスマートロックではなく、コネクティッド・ロックという呼び方にしています。

── TiNKは新しいシェアの形を生み出す製品になるということでしょうか。

 昔の田舎の家は玄関に鍵もかけず、人の出入りもオープンでしたが、生活スタイルの変化でソーシャルやシェアエコノミー的なものが無くなり過ぎてしまい、特に都心部ではそれによってコミュニティも崩壊してしまいました。そうして失われてきたものを取り戻すポテンシャルをTiNKというプロダクトは持っていると感じています。

小笠原 鍵を完全にコントロールできる技術があれば、友達の友達でそれほど信頼がない相手でも泊めてあげられるようになります。「何かと不信感がはびこる世の中で技術を使ったトラストレスな仕組みを作る」というのは牧田が最初から言っていたことで、それが面白いと思ってました。

TiNKのプロモーション映像では、合い鍵を渡した相手でもいざという時は関係を切れるという例を紹介していて、実はそこが鍵をフルコントロールできるというプロダクトの本質なんです。




他にも子供が鍵を開けたら親のスマホに通知が届くとか、生活全部を包み込むようなプロダクト思想がとても楽しい。だからこそいろんなスマートロックがある中でコネクティッド・ロックを手伝いたいんです。

 それこそワンタイムで鍵を渡せますし、使い方の幅の広さがTiNKの面白さでもあります。

けれどもそうしたユースケースをわかりやすく見せるスタートアップはほとんどなくて、ティザー的なお洒落映像に終わるものが多く、具体的な例でなるほどと思えるようにしているのもTiNKのいいところですね。それができたのは、以前に一緒に創業したPiccolo(ピッコロ)でプロモーションビデオの制作を経験していたからというのもあると思います。

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tsumugの小笠原治取締役

VC修行中のtsumug牧田社長と出会う

── 孫さんと小笠原さんはこれまで牧田社長といくつかの会社で一緒に働いていますが、最初に出会ったのはいつ頃だったんでしょうか?

 ベンチャーキャピタル(VC)について勉強したいという牧田が、共同創業型のスタートアップスタジオであるMOVIDAに参加した時からです。最初はMOVIDAに来る人たちのお世話係という印象でした。

小笠原 僕もその時にMOVIDAにいて牧田と出会ってるんですが、最初からモノづくりをしたいと話していて、プロデューサーとして事業立ち上げに関わっていたDMM.make AKIBAにもしょっちゅう来て、3Dプリンターについてがつがつ質問してました。

泰蔵さんとの共同創業は量産寸前で頓挫

── それからしばらくして、牧田さんは孫さんと一緒にPiccoloを立ち上げたのですよね。

 MOVIDAにいた時に牧田がプレゼンしていたアイデアの中に、子供の好奇心を刺激するスマートデバイスを作るという企画があり、一緒に立ち上げることになりました。

ルーペやARグラスをつくろうという話から始まって、子供が家族を記録するARカメラを作ることが決まり、牧田は代表としてハードからソフトまで企画や設計も経験し、プロモーションビデオの制作も担当していました。

小笠原 お母さんの仕事を手伝った以外で、彼女が自発的に事業を手掛けたのはPiccoloが初めてのはずです。

 ところが残念なことに、当時の技術ではまだ要になるARや音声認識の技術を実装するのが難しく、いよいよ製品を量産寸前というところで生産をストップして、ピボットするという決断をせざるをえなくなった。

台湾の大手生産企業も参加して総勢100名を越えるようなプロジェクトになっていたのに、それが突然終わってしまい、社名もVIVITA(ヴィヴィータ)に変わって牧田の役割もあいまいな状態になってしまいました。その後も意見の違いやコミュニケーションの齟齬で、話がかみあわない時期が続きました。

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Piccolo時代の牧田さん(左)と孫さん(右)

モノづくりはビビったらダメ

── そんな大変なことがあった後に何がtsumugにつながる転換点になったんでしょうか?

小笠原 Piccoloでの挫折があった後も牧田はDMM.make AKIBAによく来ていて、まだ何かを作り出すのをあきらめていないようでした。とりとめもない話をしていて、「元カレに合い鍵をコピーされて不法侵入されたから、物理鍵を無くしたい」という話が出てきた。そこでスマートロックとは違うコネクティッド・ロックなら作るのを手伝うよと言いました。

ただし最初の1年間はいろいろ大変で、ものづくりでありがちな、製品を3000個出すかどうかといったところで悩んでましたね。もともと100万個作るにはどうしたらいいかという話で開発を進めているのに、途中で怖くなって、まずは3000個と考えてしまう。それをエンジニアにも伝えて開発を進めてしまうので、100万個作ると想定していた時とはプロダクトが全然違う形になってしまう。そこは絶対悩んだらダメなんですが、たいていのスタートアップはそこでつまづきますね。

 けれども悩む人ほど伸びしろがあるものなんです。もう一つはしつこく来るところで、一度や二度ダメだと言われてあきらめる人は仕事でも心が折れやすく、事業の失敗の99%はそこにあると思っています。新しい事業を始めるというのは、金儲けみたいな単純な理由ではなく、もっと強い思いがないと続きません。

その点牧田は、全部自分ごとで納得しないと前に進まないところがありますが、それを越えると確実にできるように動くタイプだと思っています。

小笠原 牧田は最初は振り幅が小さいけれど、いろんな人に会ってだんだんそれが大きくなるところがあり、特にこの1年をかけて自分を大きく変えてきた、成長中の経営者だと感じます。

以前は全て自分がコミットしたいというところがありましたが、任せるところは任せないと進まないのがわかってきた。それに合わせtsumugの体制も大きく変えています。

具体的には雇用して組織を作るのではなく、TiNKを世に出すための仲間としてチームを作り、業務委託でギャラと何をやるかをはっきりさせ、それに合う権限も委任するやり方を取り入れています。エンジニアをはじめ広報もすべて業務委託ですが、それでもチーム全員がtsumugの仲間だと思って働いてくれています。

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これからの「新しい働き方」とは

 そもそも今の正規雇用という働き方は高度成長期に設計されたもので、経営者にとって都合のいい雇用契約を支えるために国と一緒に奨励してきたものです。非正規雇用や個人事業主というとなんとなくネガティブなイメージになっているのもそのためで、業務委託だって立派な雇用です。

小笠原 経営者自身がやりたいことのために全てを捧げてくれと契約でロックするのが今の正規雇用の実態で、働く側もどちらも首を絞める労働環境になっていると思います。それを変えるには先に経営者が変わるしかありません。

個人的には、従業員を雇用するなら、前職で給料が30万円の人なら4時間で20万円出すので残りの4時間は他で別の仕事をしてもいい働き方にしたい。

──tsumugでは新しい製品と同時に新しい働き方づくりにも取り組んでいるといえそうですね。

 時間を提供した対価として報酬をもらう、という考え方が今の時代には合わなくなっていると感じています。そもそもスタートアップがやろうとしていることはあらゆるクリエイティブの集合体なので、既存の雇用形態に当てはめるのが難しい。

報酬も金銭だけじゃなく、研究開発ができる環境に身を置いて成長につなげるといった価値の見出し方もあります。それが魅力的な場所になり、そこに多くの人たちが集まってくれる。tsumugが作ろうとしているのはそういう場所でもあると思います。

小笠原 牧田も最初はとまどっていましたが、人と一緒に仕事をするスタイルを作っているところでもある。そういうところもあわせてこれからも手伝いたいと思っています。

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孫泰蔵(そん・たいぞう)
世界を代表する連続起業家でありIT関連スタートアップを多く成功させた投資家。
現在、スタートアップの育成を通じ、中長期視点で社会課題を解決するCollective Impact Communityという新業態を標榜するMistletoe(ミスルトウ)のFounderとして、社会課題の定義および、それら課題を解決しうるスタートアップ形成に尽力する傍ら、複数のITスタートアップで役員も兼務し、数多くのスタートアップを成功へと導いている。

小笠原治(おがさわら・おさむ)
株式会社ABBALab株式会社nomad代表取締役、さくらインターネット フェロー、DMM.make エヴェンジェリスト、awabarオーナー、fabbitオーナー、京都造形芸術大学 顧問
1990年、京都市の建築設計事務所に入社。1998年より、さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。2011年、株式会社nomadを設立し「Open x Share x Join」をキーワードにシード投資とシェアスペースの運営などスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年、ハードウェア・スタートアップ向け投資プログラムを法人化し株式会社ABBALabとしてプロトタイピングに特化した投資事業を開始。同年、DMM.makeのプロデューサーとしてDMM.make 3Dプリントを立上げ、2014年にはDMM.make AKIBAを設立。2015年8月からエヴェンジェリスト。同年、さくらインターネットにフェローとして復帰。ほか、経済産業省新ものづくり研究会委員及びフロンティアメーカーズ育成事業プロジェクトマネージャー、NEDO TCP事業委員、北九州ソーシャルイノベーション機能構築会議委員、経済産業省主催の研究会「メイカーズ2.0研究会」委員、福岡市スタートアップ・サポーターズ理事などを歴任。また、2016年より、京都造形芸術大学の小笠原ラボ顧問に就任。


文:野々下裕子

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