つくばからイノベーションが生まれないのはなぜか。その答えのひとつが「Tsukuba Mini Maker Faire 2020」:主催者独占インタビュー

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2月15日〜16日に、つくば研究学園都市で、初のメイカーフェア「Tsukuba Mini Maker Faire 2020(以下、TMMF)」が開催されます。それに先だって、主催者のひとりであり、メディアアーティスト、国立研究開発法人産業技術総合研究所人間拡張研究センター主任研究員の肩書きをもつ江渡浩一郎さんにインタビューしました。

tmmf.jp

「スタートアップ戦略」と「文化芸術」を結びつける

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Tsukuba Mini Maker Faire 2020主催者のひとりである江渡浩一郎さん

──まず、つくばでメイカーフェアをやろうと思ったきっかけについて教えてください。

江渡 実はわりと明快な理由があります。私は2018年につくば市文化芸術審議会委員になりました。この審議会はつくば市の文化芸術への取り組みをどうするかを考えるものなのですが、そこで話し合っている間に、いわゆる「研究学園都市」と「文化芸術」が結びついていないことがわかりました。そこで、テクノロジーと文化芸術が結びついている事例としてMaker Faireの誘致を提案した、という経緯があります。

そもそも30〜40年前くらいに、とくに筑波大学の中でメディアアートやサイエンスアートが急に花開いて、メディアアーティストがたくさん輩出されました。しかし、それにもかかわらず、その経緯が今途絶えてしまっています。そこで、つくばでメディアアートをもう一度取り組んだほうがいいんじゃないか、という提案をしたんです。

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筑波大学(Wikipediaより)

もうひとつ、ほぼ同時期に、つくば市スタートアップ戦略策定懇談会にも参加していました。こちらは、つくば市としてスタートアップを推進するために、どのような戦略を策定したらいいかを話す場です。議論の中で、私は「ニコニコ学会β」のような場をつくってきた経緯があったので、場を盛り上げるというか、雰囲気づくりは大事ですという話をして、そこでスタートアップを盛り上げるようなイベントを立ち上げるべきと提案していました。

そのときオンラインでさまざまな人と意見交換をやったとき、その中で「メイカーフェアをつくばでやるのはどうか」という案が出てきて、とてもいい案だと思ったんです。

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ニコニコ学会β

以前J-WAVEが、「イノフェス(J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA)」というイベントをつくばで主催していました。音楽と新技術のお披露目をする場が融合した、とてもおもしろいイベントで、これはつくばにSXSWのような場をつくろうとした取り組みでした。

このイノフェスは2017年までつくばで開催され、その後は六本木で開催されるようになりました。つくばでやらなくなったのはとても残念ですが、つくばで受け入れられなかった理由はなんとなくわかります。イノフェスは基本的に音楽フェスなんです。そこにスタートアップや大学の研究成果が乗っかる形式でしたが、これがつくばでウケなかった理由の一つではないかと。つくばにはフェス文化があまりなじまないんです。

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J-WAVE主催のイノフェス

そういった過去の経験を踏まえ、もしスタートアップのイベントを再実装するのであれば、音楽フェスっぽくない、展示会っぽいイベントのほうが合うだろうと思いました。そして、トップダウンではなく、徹底したボトムアップのイベントであることが大事だろうと。音楽ライブは、時間の流れの中にイベントが配置されます。そうではなく、フロアにいろいろ展示があり、歩き回るようなイベント。つまり、イベントが空間に配置されるようになっている。そのとき、一番適しているのはメイカーフェアだと思ったんです。

──「ボトムアップにしたい」と思ったのはなぜでしょうか?

江渡 つくばにも、いわゆる産業フェアのような展示会はたくさんあります。しかし、そこから技術移転が起こったとか、スタートアップが生まれて成功したという話はあまり聞かない。分析してわかったことは、技術を買う側が少なすぎるということなんです。技術シーズ(種)や研究シーズをつくり出す側の人、いわゆる研究者はたくさんいますが、社会実装しようとする側の人が少ない。なのでそこを盛り上げないといけないと思ったのです。

実はそこがキチンとつながっているわけではないのですが、メイカーフェアは趣味的な場で、利益などを目的とせず、社会実装されるとか人の役に立つとか考えず、とにかくつくるというところに意義があるという立場です。

ただ、中には圧倒的におもしろい展示もある。ちょっと工夫すれば社会にも受け入れられるような優れた技術もある。Maker Faire Tokyo (以下、MFT)を見にいったときに、自分で起業して売ろうとしている人を見掛け、つくばでまず後押しするべきは、このタイプの人たちだと感じたわけです。

具体的に言えば、スタートアップになりきらない、技術を社会実装できるかどうかもわからない、でも見れば圧倒的におもしろいことはわかるといった、ギリギリのところを狙った人が重要だと思ったんです。そこで、そのような人を集めたい。それを具体的な提案に落とし込むときに、メイカーフェアを核とするのが最善だと考えたわけです。

──なるほど。それでスタートアップは集まりましたか?

江渡 ほぼ集まらなかったですね。すでに応募は締め切っており採択する段階(インタビュー時)なのですが、スタートアップや研究シーズは1割も集まらなかったと思います。

──告知が足りなかったのでしょうか?

江渡 それもありますね。ただ、スタートアップや研究者に限らなければ、応募はたくさんきました。全体でみると、せっかくの応募を断らなくてはいけないくらいにたくさんの応募だったのですが、研究シーズ的なものはそれほど多くはなかった。ただ、数じゃないです。その中でキラリと光るモノがあればそれで十分です。初回でこのくらいなら、これが続けばドンドン増えていくとも思っています。

小中学生にスタートアップを肌で感じてもらいたい

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──今回、TMMFに出そうとしている人にも話を聞いたんですけど、少しハードルが高いと感じた人が多かったように思えます。

江渡 それは高いでしょうね。それには理由があって、いちばんは東京との距離が近いこと。距離が近くて条件が同じなら、東京とまったく同じものが集まる可能性がある。ハードルが高いというと語弊がありますが、普段メイカーフェアに出したことないような人が応募しやすい条件を考えた、ということはあります。

──それで実際応募は今までと違う人が多かったのでしょうか?それとも同じ人がけっこういましたか?

江渡 私自身、いろいろなメイカーフェアを見てきたほうだと思いますが、従来と同じようなモノは半分くらいで、残りの半分は今まで見たことがないようなモノが集まりました。なるほど、こんなメイカーもいたのかと驚きました。研究成果やスタートアップはそれほど出てないかもしれませんが、今まで見たことないものはたくさん出ると思いますよ。

──さきほど東京との距離の話が出ましたが、このイベントに来てほしいのは東京の人でしょうか?それともつくばの人ですか?

江渡 もちろん東京からの参加も大歓迎ですが、基本は地元の人に来てほしいです。それも小中学生に来てもらいたいと思っています。

──なぜ小中学生なのですか?

江渡 つくばは技術シーズや研究シーズは山ほどありますが、スタートアップを起こそうという意識はいまだ芽生えていません。ただその意識を短時間で変えようとも思っていなくて、変化には10年くらいはかかると思っています。そこで重要なのが、子どもです。小中学生のころから研究や技術を見て、さらにそれを世に出すのが楽しいと考える人が増えれば、つくばにとって一番意味のあることになると思います。

メイカーフェアは今後どうなっていくのか

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──Maker Media社の倒産で、世界的にメイカーフェアが揺れていますが、その影響はありましたか?

江渡 たしかにBayAreaを運営するMaker Media社がチャプター11(米連邦破産法)になって続けられなくなったというニュースは流れていますね。ただ、それと他のメイカーフェアは別です。ライセンスを発行する側がたまたま倒産しただけで、MFTも含めその他のメイカーフェアは順調と聞いています。なので私はそれほど気にしていません。

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Maker Media社のチャプター11のお知らせ

とは言え、ちょうどタイミングが合致したため、TMMF実行委員会でもスポンサーへの説明においても、かなり話題になりました。直接の答えになるかどうかはわかりませんが、今回のつくばのメイカーフェアでは、まったく新しい取り組みをやろうと考えています。具体的には、メイカーの力を、社会課題の解決に結びつけるという提案です。

メイカーの方々は、とにかくつくりたいものをつくる。そこに目的はない。それがメイカーのよいところです。ただ、その逆に、技術はあってなにかつくれるのだが、目的がほしいと思っているメイカーも若干数いる。そこに、具体的に解決したい課題を提示すれば、その課題解決に取り組みたいと考えるメイカーもいるのではと考えたのです。そこで、そのような具体的な課題を、防災科学技術研究所などの研究機関から提案してもらい、その課題解決をみんなでコンテスト形式で行なうというイベントを考えています。詳細は、2月のTMMFで発表する予定ですので、楽しみにしてください。

もちろん、今までのメイカーフェアはすばらしいと考えています。しかし、そこに“社会課題の解決”への道筋をちょっとでも示してあげれば、これを支援するべきと考える人も増えるのではないでしょうか。

メディアアートという側面から見たメイカーフェア

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──ところで江渡さんはメディアアーティストという肩書きもお持ちですが、そのメディアアーティストの江渡さんから見ると、このメイカーフェアはどうなのでしょうか?

江渡 とてもおもしろいと思ってますよ。この話をすると長くなってしまうのですが、私は以前、集合知芸術の歴史について調べたことがあります。フェスティバル形式で芸術作品を見せるイベントはたくさんあって、メイカーフェアはその系譜だと思っています。

具体的には、E.A.T.(Experiments in Art & Technology)という科学と芸術を融合したイベントがあります。また、サンフランシスコには、エクスプロラトリアムというサイエンスアートの殿堂があります。その2つが双翼をなしていました。フェスティバルみたいな形式で作品を見せるという意味では、E.A.T.のほうが近いですね。


その時代は、いわゆるフラワー・ムーブメントのようなヒッピー文化の時代と重なっています。人が集まってそこでフェスティバルがはじまる時代になり、セカンド・サマー・オブ・ラブのような音楽フェスに発展していくわけです。

メイカーフェアは、西海岸におけるフェスの流れを引き継いでいると思います。開放的な屋外で出展物が並んでいて、火を噴く車があったり、ダンスパフォーマンスがあったりして、それはやはり西海岸文化の一部だと思います。

NTTICCで開催されたE.A.T.の展覧会フライヤー

一方でさまざまな機械を改造し、機械同士を戦わせるアート作品をつくってきた「Survival Research Laboratories (SRL)」というアーティスト集団がいます。興味深いのは、このアートグループを熱烈に支援するのは、超ハイエンドの現代芸術関係者と、もう片方はバイカーなんです。バイカーは、日本でいうと暴走族ですね。つまり、暴走族からも知識人からも、同時に支援される作家なわけです。そのような、ハイエンドとローエンドが同居する文化という流れもまた西海岸にはあります。

あとは巨大な人形を燃やすことで有名な「バーニング・マン」ですね。これも非常に開放型で、ボトムアップ型のスペースになっています。このような文化的系譜の延長に、メイカーフェアがあると思います。

メイカーフェアはその中でも、一般に受け入れられやすいというか、子どもでも家族でも楽しめるという面を重視していますね。それが日本に限らず世界で受け入れられている理由ではないでしょうか。

メイカーフェアについてシンポジウムなどで議論することがあるのですが、その中で特に印象的だったのは、「巨人の肩から降りる」という言葉なんです。「巨人の肩に乗る」という言葉がありますよね。ニュートンの言葉と言われていますが、科学者は過去の知的資産の上に立っているからこそ未来を見通せるのだという意味です。「巨人の肩から降りる」は、その正反対ですね。いままで積み重ねてきた過去の知的資産を無視しよう、という意味になります。

実はこれ、科学の世界においては一番のタブーなんです。過去の知的資産の上に自分たちがいるということが、科学者としてのレゾンデートル(存在価値)になっているからです。実は芸術家もそうなんです。芸術家の役割は、芸術史にこれまでなかった新しい表現を足すということ。つまり、芸術史を無視してはいけないんです。なので、科学者や芸術家の立場からメイカーフェアを見ると、もやもやするというか、気持ち悪いと感じる方もいるでしょうね。なぜ、わざわざやってはいけないことをやっているのかと。

スタートアップと社会の「共創の場」をつくる

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──まだはじまってはいませんが、TMMFは今後どこを目指すのでしょうか?

江渡 共創の場をつくってくださいという依頼が、けっこうあるんです。ニコニコ学会βでは、ニコニコ動画のユーザーと研究者を結びつける場をつくった。また、文科省COIプログラムでは、若手研究者が横につながる場をつくりました。今はそこから発展し、共創の場をつくるにはどうしたらいいかを研究するチームを立ち上げています。

TMMFでは、そのような共創の場からスタートアップを生み出したいという思いがあります。なので今後はそのような「共創の場」をTMMFを通してつくっていきたいですね。

いまだに、職業を選ぶ際の進路という意味では選択肢はまだまだ狭いと思います。組織に所属する以外の選択肢が、もっとあっていいのではないかなと。ですが現状ではそれを選択するのに、もの凄いエネルギーがいる。そういう意味では、TMMFでつくばの子どもたちにスタートアップのような”新しい選択肢”のような雰囲気を、少しでも見せられればと思っています。

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文・写真:藤倉涼

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