行政も民間も本気でぶつかり合うからスタートアップが育つ 「FGN=福岡市」と言われる理由

tsumugが提供する、フリーランスや複業従事者・リモートワーカー向けのワークスペース「TiNK Desk」。その体験型ショースペースは福岡のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」、通称FGNの2階にあります。

FGNは、全国の自治体から視察が相次ぐ注目施設であり、tsumugの本社も入居していますが、今回はFGNの副事務局長を務める池田貴信さんに、tsumugの代表である牧田恵里がお話しをうかがいました。

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牧田恵里(まきた・えり)
株式会社 tsumug代表取締役。東京理科大学在学中、東南アジア企業との合弁会社を設立。2013年4月より孫泰蔵率いるVCにジョイン。アクセシビリティコントロールシステム TiNK の開発会社tsumugを設立し、遊休空間を活用する空間サービスとしてTiNK Desk、TiNK Officeを展開。2020年4月に、新しい職住環境を社会実装するためのコンソーシアム New Norm Consortiumを発足。
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池田貴信(いけだ・たかのぶ)
FukuokaGrowthNext運営委員会事務局副事務局長。2008年に福岡地所に転職し、2011年にキャナルシティ博多イーストビル開業を担当。その後グループ会社で新規事業を担当し、2014年に開発事業本部でロードサイド型商業施設の開発担当を経て、FGNの開業から携わる。FGNでは、施設管理運営、入居管理など、バックオフィス機能を担当しながら、入居者と企業などのマッチングなど入居者支援を行っている。
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福岡は行政と民間がケンカもしながら仲良くスタートアップを支援

牧田恵里(以下、牧田) 池田さんとはいつもお話しをしているんですが、今日はあらためて、FGNという場所の特徴について、聞いてもいいですか。

池田貴信氏(以下、池田) FGNは、福岡市そのものを表している場所ですね。私自身も、FGNを運営するイチ民間企業の社員に過ぎないのですが、福岡市長をはじめ、職員と民間企業が垣根を越えて、仲良く、時にはケンカもしながら、スタートアップ支援に一緒に取り組む。そんな場所ですね。

牧田 「ケンカしながらも仲良く」というのがいいですね。

池田 そうですね。正直、お互いに「こっちの言うことも聞けよ」って思っているはずなんですよ。でもスタートアップ支援というのは、ただやればいいというだけじゃないでしょ。何を見据えてやるのか、関係者が互いに方向性を合わせてやらないと、意味がないものになるので。

だから、お互いにおかしいと思ったことは「おかしいじゃないんですか」と言い合う。その上で、民間でできることは民間が精一杯やるし、行政も一生懸命やってくれている。本当にぶつかり合っているのがいいと思いますね。

牧田 ケンカせずに仲よく、なんて言っているよりも、生々しくていいですね。

池田 他の自治体だと、箱だけ作って「あとはヨロシク」と放り投げる。それで、後から結果だけを聞いて「なんでできていないの」「これやるって言ったでしょ」「来年予算減らしますよ」……みたいなことを言う。

牧田 大企業がスタートアップとコラボレーションや協業になっても、「じゃあ、現場でがんばって」ってという感じで、丸投げみたいなこともありますよね。

池田 FGNだと、「どこがうまくいっていて、どこがうまくいっていないのか」「なぜできているのか」というところを事務局の人間が、肌感でわかっている。だから「民間がどうすればいいのか」「行政にはどうしてほしいのか」、そういうところをお互いにぶつけあう場所になっているのかな。

牧田 ぶつけ合う場、いいですね。

池田 あともうひとつ、FGNって行政だろうが民間だろうが、使えるリソースは本当に使いまくることができる。

牧田 そこが福岡市の施設らしい感じで。

池田 そこが売りですから。福岡市の本気を表している。みんなが本気でやっているんですよね。

牧田 tsumugがFGNを本社にした理由と、FGNのなかにTiNK Deskを作った理由も、それが近いかな。使い倒すことができる、というところ。

池田 FGNのなかにTiNK Deskがあることで、実証実験の場にもなっている。つまり、それ自体が支援のひとつ。同時に事務局からも、TiNK Deskを誰がどのくらい使っているのか、数字じゃなくて目に見えてわかる。

牧田 データとして見えている数字だけじゃなくて、今週はけっこう使われているなとか、週末なのに遅くまで使っているなというのが、支援してくれる人の目にも見えているのもFGN拠点ならではですよね。

池田 だから、支援について話をするときも、お互いにズレがないし、素直にもっとこうしたほうがいいって言い合える。

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スタートアップが勝手にスタートアップのためのイベントをやる

牧田 事務局から見て、FGNのなかにTiNK Deskがあるというのは、どんな感じなんですか。

池田 入居している企業のサービスが使われているのを実感できますよね。tsumugがどんなサービスをしたいのか、どんな展開をしていきたいのかって、すぐにわかります。

牧田 支援をする側が、支援先のスタートアップのサービス利用者が見えると、支援しやすいですよね。私も、事務局の人が使ってくれると嬉しいし、支援されている側として励みになるんですよ。

池田 FGNがTiNK Deskを受け入れたのも、そこですよね。取り組んでいることを身近で見たいし、それが発展してFGNの支援の成功事例にしていきたい。こういうと、tsumugにはプレッシャーになるかもしれないですけど。

牧田 プレッシャーを励みにがんばります(笑)。

池田 大きく育って、誰もが知っているサービスになってください。そして、TiNK DeskのtsumugとFGNが結びつくようになって、私たちのイベントにも登壇してもらう(笑)。正直、FGNとしても福岡市としても、支援の成功事例がほしいですから。

牧田 最近FGNの入居者や卒業生で、スタートアップのコミュニティをスタートアップ発信で作る人たちが増えてきたじゃないですか。他のスタートアップの方と話をすると、事例が少なくて悩んでいたり、東京でのやり方を知りたがったりしているんですよね。特に、プロダクト開発のフレームワークやメソッドみたいなことや資金調達について、より実践的な知識を必要としているみたいです。

池田 支援しているスタートアップから、そういう要求が出てくるのはうれしいですね。

牧田 FGNでは、キャンプ女子社の橋本華恋さんと柴垣道宏さんが、フクオカスタートアップナイトというのを毎週金曜日にやっていますよね。最初、福岡市が主催するイベントだと思っていたんですよ。そうしたら、スタートアップがやっている、スタートアップのためのイベントだったみたいで。

池田 勝手に始めていましたからね(笑)。でも、それがコミュニティ本来の在り方だと思います。それより、自然発生的に若い人たちが声を上げて、それに福岡市役所の人間も普通に参加しているでしょう。

牧田 焚き火をやっているんですけど、火の番をしているのが市の職員だったりしてFGNらしいなと(笑)。

池田 最初は、マッチングが何件あったとか、報告してもらう代わりにシャンパンを提供する、みたいな話を事務局でしていたんです。でもそれはやり方が違うなということで、やめて自由にやってもらった。

牧田 件数の報告はけっこうツラいですもんね。件数が目標になっちゃうのも変だし。

池田 こちらとして、守ってほしいことは伝えた上で、自由にできるようにしようということになった。一瞬、変な方向に行きそうになりましたけど、最後は自主性を尊重しようとなった。

牧田 件数というのは、外部に一番伝わりやすい方法のひとつなんですが、それに追われたり、帳尻合わせをしようとすると、本来目指したい形から離れて言ってしまうこともある。でも今のフクオカスタートアップナイトは、ベンチャーが今、どんなことで悩んでいるのか、素直に話せる場になっているのがいいですよね。

池田 そういう声が聞けると、自然に他の場所でもイベントをやろうという人たちが出てくる。だから、任せるところは任せるべき。

牧田 本当にそう思います。焚き火の横で少し話ただけで、次に打合せできることがあるんですよ。マッチング目的のイベントじゃないけど、結果的にマッチングになっているっていいですよね。

池田 マッチングの数字を数えると、それが目的になって、毎回「つなげなきゃ」ってなっちゃう。そうすると、「イベントめんどくせー」って主催者が嫌になっちゃう。好きでやっているのがいちばん。

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ひとりで悩むよりまずは事務局に話に来てほしい

池田 逆にお聞きしたいんですけど、スタートアップの側から、FGNのなかでやってみたいことありますか?

牧田 今は自分たちの事業で手いっぱいなんですけど、こうやって池田さんと話してみて、やっぱり相談に行きやすいなと改めて思いました。悩んでいる途中でも、一度気楽に話をしにいきたいなって。

池田 事務局にはいろいろな人がいるし、それぞれ得意分野もある。これだけいろいろな事務局スタッフがいるスタートアップ施設はほかにない。他のコワーキング施設には負けないサービスが提供できていると思います。

牧田 FGNも含め、“福岡市を使い倒す”という観点で、どんなことができそうか相談したいなと思いました。使い倒した先に、福岡からこんなものが生まれました、という話がたくさんできそう。

池田 FGNを使い倒して、そのことを話してもらうことが、福岡市にとって一番のアピール。事務局には今、スタッフが12人いるんですね。それぞれに得意分野があって、所属する会社ならではの強さがあったりするので。だから、自分たちに”合う人”が見つかるまで、トコトン会いに来てほしい。僕らは支援することが仕事なので、相談されたらトコトン支援します。

牧田 事務局の人たちのキャラとかは、話さないとわからないですからね。私は、池田さんがいるタイミングで事務局に行くことが多くて、一時期は事務局に行くたびに、必ず池田さんと話していましたね。

池田 最近のFGNの強みは、「FGN ABBALabファンド」が始まったこと。担当の室井信人さんが、いつもFGNにいてくれて、東京のVCメンバーともつながっていて、福岡にいながら東京のVCの動きも知ることができて、さらに資金調達までしてもらえる。

牧田 なるほど、たしかに!FGNの中にVCの人もいるとより広く相談できそう!室井さん、ほぼ事務局にいてくれますもんね。「FGN ABBALabファンド」、めっちゃいいですね。

池田 シード※やプレシード※のスタートアップには、めっちゃ相談しやすくなっている。担当の室井さんがきちんとフィードバックするので、次の課題も見えてくるし、足りないところがあれば、事務局のメンバーとも相談できる。

牧田 それはいいですね。とにかく、福岡でスタートアップを始めたいとなったら、まずはFGNの事務局に話に来る。悩んでいることをしゃべってみる。

池田 やっぱり、しゃべれば楽になるじゃないですか。相談しても期待通りの答えは出ないかもしれないけれど、ひとりで悶々として進まないよりはいい。

牧田 昔、駆け出しのころ、VCの人に「アイデアというのは、1万人が同じことを考えていて、そのうち実際にアクションするのは100人くらいで、そのうちの1人だけがチャレンジしたことへのリターンを得られる、くらいに考えておいたほうがいい」と言われたことがあります。

池田 加速するなら、人とシェアしたほうが早い。悩みがなくても、事務局の人にまず話に行く。そのほうが早いと思います。特にFGNの事務局は、これまで4年間、スタートアップ支援に係わってきた人がたくさんいるので。

牧田 4年前のFGN立ち上げのときと今とで、考えが変わったところはありますか。

池田 4年前は、いきなりFGNに行けっていわれて、知らないことばかりで……。スタートアップの人と話したり、𠮟られたり、いろいろありました。それから変わったところがあるんだろうけど、考えたことないなぁ。

牧田 たくさん変わったとこありそう(笑)本当にいろんな経験されてますもんね。

池田 新しい福岡を作るんだ、という市長の言葉を信じていますからね。それに賛同した民間企業が、スタートアップと一緒に新しい街を作っていく。それを一緒に見られるのが、一番うれしいですね。

牧田 めっちゃいい話ですね。ハンコレスのときも、市長がやるぞって言ったときは、「難しいんじゃないの?どうやるの?」みたいな空気があっても、市長の過去10年間のスピード感もって実現してきた姿勢を皆が見てきているから、職員も「やるもんだ」と信じて実現した、という話をきいて。それが物事のスピードを速くする根本でもあるのかも。

池田 そうですよ。言っている人に迷いがないから、周りも絶対にやるんだろうなと思える。梯子が外されないって、信じられるんですよね。だからその夢を信じて、一緒に楽しむ。

牧田 新しいことをする街になっていくのを実体験できる。スピードをもって進めば、一緒にやっている人たちが信じてサポートしてくれる。一緒にやった結果、福岡市がよくなっていく。絶対にできる!って感じしますね。
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文:青山祐輔,写真:池田るか

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