ハードとソフトの一番の違いは「時間軸」 ハードウェアスタートアップで成功することの難しさ

tsumugは、次世代型Connected Lock「TiNK」を中心としたハードウェアスタートアップです。そこで、ハードウェアスタートアップの先輩とも言える、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の人工知能研究センター デジタルヒューマン研究チーム 主任研究員(※インタビュー当時)の尹祐根(ゆん・うぐん)氏に、ハードウェアスタートアップで大切にすべきことについて聞きました。


【プロフィール】尹祐根(ゆん・うぐん) ロボット研究者、起業家、東北大学博士(工学)。東北大学助手、産業技術総合研究所研究員を経て産総研発ベンチャーライフロボティクスを創業。同社は肘のない伸縮式ロボットアームを開発・販売後、ファナックの子会社に。2018年度から産総研に復帰、2020年6月から、同研究所の人工知能研究センター デジタルヒューマン研究チーム主任研究員*1


役に立つロボットに興味があった

——ロボットに興味をもったのはいつからですか?

きっかけは本当によくあるはなしなのですが、小学生のときにロボット系のアニメを見たりプラモデルを作ってかっこよかったとか、そういったことですね。もっと遡ると、幼稚園のころにマジンガーZとか、そういうのがきっかっけでロボットに興味を持ち始めました。もちろん、そのときはロボットの仕事に就こうと思ったわけではないのですが。超合金とかそういうのでも遊びましたね。

——そこからロボットの分野に進んだのはどういった経緯で?

中学や高校の進む中では、ロボットに興味はあったものの、何かそういうのが仕事にできればいいなって漠然と思っていただけで、大学入る前に、大学の学部とかを調べると、意外と大学でロボットについてやっていたりするんだな、ということを知って、そこに行きたいなっと思った感じですね。

——そこから、二足歩行ロボットのようなものではなくて、産業用ロボットのほうに行ったのはなぜ?

僕自身、役に立つロボットというか働くロボットに興味があって、二足歩行はその分野には遠いだろうな、と思って。歩く、っていうのはけっこう難しい世界だし、それについては世界中の頭のいい人がやっているので、あんまりそこには行きたくないなと。おもしろいですけどね。実際に僕も使って研究しましたけど、難しいぶん、そこであんまり僕が世界中の頭のいい人としのぎを削っても、やりたいところにはいかないなと。僕は結局腕に興味を持って、それでロボットアームの研究をしたんですね。

会社を立ち上げるときは、介護ロボットが流行というか、当時話がたくさんあった中で、僕も介護ロボットは大事だなと思っていたので、プロジェクトを含めてやってみたところ、メディアも含め非常に評判が良かった。なので、これだけ評判になるんだったら売れるだろうと思って会社を立ち上げたら、まったく売れなかった。

でも会社立ち上げちゃったし、苦しみを味わいながら6年7年経ったタイミングで、産総研にを休職して、会社で産業の開発を進めました。

ハードウェアスタートアップは全部が大変

——そのハードウェアベンチャーの会社を作って大変だったところってどこですか?

大変だったところは全部ですね(笑)。楽なことはひとつもなかった(笑)

——ハードウェアスタートアップならではの苦しみなんですか?

多分一般的なスタートアップの苦しみ+ハードウェアの苦しみ。僕たちは結局ハードだけでなくソフトを作るので、ハードウェア+ソフトウェアの大変さというか。

ソフトウェアも、一般的なスマホアプリのようにAndroidやiOSの上に乗せればいいじゃんといったようなものではなくて、OSの開発から始めなくてはいけなくて。OSレスなら、組み込みで作らなくてはいけない、OSがあるのならOSの上で動かしたりしなければいけないなど、開発領域がけっこう広いんですね。それを全部やらなくてはいけない。

ハードウェアとしては、一般の小売のように、売ったらおしまいではない。バグがあっても後で修正してアップしますというわけにもいかない。ハードウェアの場合は、下手するとリコールとかになってしまう。

またBtoBでお客さんに買ってもらうためには、メンテナンスをどうするかとか、修理をどうするかとか、極端な話、大手ロボットメーカーと同じ体制をしかないといけない。そこで「我々はスタートアップなのでメンテナンスできません」とは言えない。そうじゃないと安心して買えないので。

非常にやらないといけないことが山ほどあって、メーカーと同じことをやらないといけないとすると、いろいろな部署が必要になる。僕らは研究開発の部隊がいて、プラス量産する部隊がいる。そしてその量産したものを売ってくとなると、ガチガチの営業が必要で、そしてそれをサポートするセールスエンジニアがいる。さらに量産するということは、資材調達をしなくてはいけない部隊がいて……という感じで、もう全部必要になってしまう(笑)

それだけいろいろな部署ができると、普通のスタートアップに比べて、社内文化の形成が非常に難しいし、そういうことをやっているスタートアップが、ここ最近あまりなくて。

——ハードウェアスタートアップで一番引っかかるのは、量産の部分かなと思うのですが。

そうですね、量産でも動く場所がどれだけあるかによって違うと思っています。電子デバイスでも、動かなければ電気設計と筐体があればなんとかなりますが、ロボットアームは可動箇所が6箇所もある。いきなり難易度が上がるんです。しかも僕らは、今までなかった機構を使っていたので、すべてが初めてで、誰もやっていない。まあそれが僕らの強みでもあったのですけど。

ハードとソフトの一番の違いは「時間軸」

——今ソフトウェアとハードウェア、どちらの時代なんでしょうか。

そうですね。時代の揺り戻しがあると思っています。基本、ソフトウェアでうまくいった人たちってハードに手を出したがるんですね。Googleも然りで。それでハードに手を出してハードウェアの難しさや時間軸の違いに頭を打って、またソフトに戻る。そしてその痛みを忘れたころにまたハードに行くという感じがすごくします。

ハードがソフトと一番違うところは、やっぱり時間軸ですね。たとえば10年でCPUは大きく変わりHDDの容量もすごく増えて、10年前にできないと思っていたことが10年後にはけっこうできちゃう。でもハードウェアで考えると、モーターの大きさってこの10年でそれほど大きく変わっていない。電気の基本設計もほとんど変わらない。ゆっくりとした進歩で進むんです。

なぜそのようなことが起きるかというと、結局重力の影響を無視できるかできないかという話なんですね。基本、スマホに入っているようなアプリは重力の影響を考える必要がない。ハードはとにかく重力に影響を受けるので、エネルギーコストがものすごくかかる。なので、モーターの大きさが10年経っても半分の大きさにはできないですよ。発展がすごくゆっくりなんです。

そこをソフトウェア屋さんは理解できなくて、10年経ったらモーターは半分になるでしょうとか、10年経てばコストが半分になるでしょうとかいうんですけど、そうはならない。なるわけがない。

それとハードはコモディティ化しやすい。ハードはコピーしやすいんですよ、バラしちゃえば見えるので。そういった意味で、いいハードを作っても、ハードだけ売っていると部品メーカーになってしまう。そうなると原価がかかっても売値は下げなきゃいけなくて。

一般ではそれでもいいんだけれども、スタートアップだと、それはなかなか難しい。利益率を上げるにはどうすればいいか、パテントを守るにはどうすればいいか。そう考えると、ソフトと両立でやるのが一番いい。自分たちのオリジナルのハードを作りながらソフトを一緒に売ったら一番強いです。

そして中国は、そういうのがすごく得意なんですよ。彼らも、ものづくりだけでは儲からないとよくわかっていて、ハードを作る技術もすごいですが、それにきっちりソフトを乗せてくる。彼らはそういう意味で強いなあと思います。

——時間軸の話がとても興味深いのですが、ハードの場合、たとえば時代が変わったときに方向変換とかが難しいと思うのですが。

それは大きいですね。作っちゃったのに方向転換するとなるともうそのハードはいらないんだけどという話になったときに投資家にどう説明するのかとか非常に難しいですね。

アプリであればサーバーだけなので、ピボットしてもそんなにコストがかからない。捨ててもたかが知れている。でもハードはコストがかかっているので。なので、作らないでどこまで行けるのか、どこまでコンセプト検証をやるのか、どこから腹をくくって量産に入るのかが大事で。そういうリスクが高いので、量産から先で仕様変更するのはすごく難しくなってきますね。

(後半につづく)

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文:藤倉涼 写真:山﨑悠次

*1:※2021年1月10日に同研究所を退所。インタビューは2020年7月の在所中のもの。

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