日本は事例が少なすぎる ハードウェアスタートアップで成功するために必要なこと

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の人工知能研究センター デジタルヒューマン研究チーム 主任研究員(※インタビュー当時)の尹祐根(ゆん・うぐん)氏に、ハードウェアスタートアップについて聞くこのインタビュー。後半では大切にすべきことについて聞きましました。

前回の記事はこちら。 edge.tsumug.com


【プロフィール】尹祐根(ゆん・うぐん) ロボット研究者、起業家、東北大学博士(工学)。東北大学助手、産業技術総合研究所研究員を経て産総研発ベンチャーライフロボティクスを創業。同社は肘のない伸縮式ロボットアームを開発・販売後、ファナックの子会社に。2018年度から産総研に復帰、2020年6月から、同研究所の人工知能研究センター デジタルヒューマン研究チーム主任研究員*1


ハードウェアスタートアップを成功させるために重要なこと

——ハードウェアスタートアップを成功させるときに重要なことは何ですか?

大事なのは、そのハードウェアと、上に乗るソフトウェアで、お客さんにとって何がうれしいのか、というところですね。お客さんが何か困っていて、その何かが解決できるからこそ買ってくれるわけですが、ハードウェアの場合、そこを見つけるハードルが高い。出してから反応を見ようとするとクレーム処理がけっこう大変なので、出すことにまずハードルが高くなってしまう。そこをどれだけ低くするか、ということですね。

実際、中国ではそれをやっているんですよね。失敗もしているし。でも投資家も含めて、それでいいという文化になっているんですよ。つまり2、3回失敗するよねっという前提で投資している。一回しか失敗を許さないよ、という文化とは違う。

——日本が失敗に対して厳しい部分があるような気がします。

そうですね。数の問題があって、中国の場合はそういったハードウェアスタートアップがバタバタ出てきて、誰かが成功するだろうという文化が出来上がっている。日本みたいに少数しか出てこないのと比べれば、確率の問題で差が出ますよね。

このあたりは鶏と卵の問題でもあるんですが、日本ではそこで大儲けをしている人がいないので、なかなか出てこない。中国では、そこで大儲けしてる人がいるからこそ、失敗しても投資する。そこのメンタルの違いですかね。

あと、ITのほうが資金回収の効率がいいんですよ、どう考えても。VCは、言ってもお金が儲からないと、次のファンドが作れないので、ITやソフトウェアに投資しせざるを得ないんですよ。

——聞けば聞くほどハードウェアスタートアップのハードルは高いですね。

そうですね。さらに動くものとなると、今度は安全という概念が入ってくるんです。そういったものに対する準備がけっこう大変で、それを最初から考えて設計しないと、後から全部やり直しっていうことが普通にある。そういうところまでちゃんとやらないと商品として出せない。

——ハードウェアスタートアップをやるメリットってなんでしょうか。

メリットというか、そういった意味でプレイヤーが少ないので特徴が出しやすいんですよ。そこはハードウェアスタートアップのメリットのひとつですね。

あと先ほども言ったようにソフトウェアエンジニアの中にはハードウェアスタートアップに入りたいという人がけっこういるので、そういった意味でいいエンジニアが取りやすいというのもメリットですね。やっぱりエンジニアの中にはもうパソコンの中で動くのは嫌だ、リアルで動かした、という人がいるので。

——最近、ものづくりというか、とりあえず作っちゃったので、それを売りたい、みたいな話も出てくるようになりましたが。

僕は、ハードウェアをやるなら、もうお金をガッツリと集めるしかないと思います。個人で出せるお金には限界があるし、小さくやるみたいなものはスケールしないと思うので。そこが一番大きな違いだと思いますし、それにあわせて大変なこともたくさん経験するので、エンジニアスキルというか経営者スキルは圧倒的に上がってくると思います。そこでうまくいかなくても、もう少し難易度の低いところに入ると、そのスキルがすごくよくわかるんです。あ、この程度でいいのかと(笑)。

——なるほど、たしかにハードウェアの経営者はいろいろなハードルがありそうですね。

そうなんですよ。そしてそのハードルを越えている人が周りにいないんです。だから周りに相談もできない。みんなわからないんですよ。そこがとても苦しいところですね。

——そういうときはどうしていたんですか?

そういうときは仕方ないですよね。わからないときはわからない。あとは、ハードをやっている大手のメーカーにいろいろ助けてもらいました。大手だろうがスタートアップだろうが、量産というところでは同じなので。 スタートアップは、比較的スタートアップ界隈から情報を得ようとしますが、僕らもそれはしましたが、大手メーカーやそこで働いていた人たちからも情報を得るようにしていましたね。

ハードウェアスタートアップは大企業との関係も大切

——そういった意味で、今epiST*2のアドバイザーについてると思うのですが、それはハードウェアスタートアップが大変というとこで、サポートしていかなければいけないと思ったからですか?

そうですね、僕もいろんな人に助けてもらってきたので、それを次の世代に返していかないといけないと思っています。そして助けた彼らが、それに対して恩返ししたいというのであれば、さらに次の世代に伝えていってねと。それを回していければ、それでみんなハッピーになれるんじゃないかなと思っています。

——このサポートで、ハードウェアスタートアップの成功事例が一つでも出ればいいと思っている?

そうですね、もちろん成功事例が出ればそれに越したことはないのですが。それとは逆に、僕もハードウェアスタートアップですごく苦労したので、やるにしても相当の覚悟を決めてやらないとダメだよ、ということを伝えたい。

あとは大企業と連携することも大事だよとか。大企業は豊富な施設を持っているので、それを使わせてもらうことも、ハードウェアスタートアップでは大切だと伝えたい。

そういった意味で、どうやったら成功するかはわかりませんが、どこに落とし穴があるかわかるので、そういう落とし穴に対して、サポートできればと思っています。

——大企業とスタートアップって、手を組めるものなのでしょうか?

お互い得たいものがあって、それが得られるんだったら手を組むと思うんですよ。

経済合理性をクリアできなければ始まらないので、お互いに何を与えられるかについて大企業とスタートアップが握れれば、後は感情面なので、そこは解きほぐしていけば、お互いに組むと気持ちいいよね、という関係性が出来上がるんじゃないでしょうか。

それが「組むのが大事なんだよ」という感情のところから入ると、大企業からしてみれば、何でだよという話になりかねないですよね。そこはやっぱり、稟議を通すことが大事で、稟議を通すためには、どこに経済合理性があるかを説明する必要があると思います。

——先ほどVCは短期間の利益を求めると言っていましたが、そうなるとVCとハードウェアスタートアップの相性はあまりよくないのでしょうか。

そうですねあまりよくないと思います。

——でもそういうハードウェアスタートアップもけっこうありますよね?

まあ今は、投資家がお金をたくさんもっているので、まずは投資を受けよう、ということもありますからね。それに全部が全部短期的なところを目指してるわけではないと思います。中にはできるだけ協力したいというVCもいるので、あとはどれだけ腹を割って話せるかなと思います。そしてそれを契約書の中にどこまで落とし込めるか。

——そこは初めてハードウェアスタートアップやるときには難しいところではないでしょうか。

そうなんですよ。そこが情報の非対称性が明確にあるところで。投資側はたくさん投資しているのでわかっているんですが、受ける側大体初めてなんで、だいたい契約書でやられちゃうことが多い。そこをやっぱり経験者がサポートしないといけないと思います。

産総研とRTミドルウェア

——産総研の中では他に何をやっているんですか?

また研究を始めています。またそのネタをもとに起業するのもいいかなとも思っています。

——それは前の仕事のような?

いや一回まっさらにして考えたいと思っていますね。やはりいい面でも悪い面でも、すごく現実とお金と資本主義の世界をひたすら見せられたので、次に企業するときは苦労したくないって思っています(笑)。自分の興味のある分野で起業に苦労しないという、僕のニッチな世界を研究で探しています。

——ところで、産総研で開発したRTミドルウェア*3にも関わっていらっしゃるんですよね?

そうですね、もともと産総研でやっていたRTミドルウェアの立ち上げのメンバーの一人で、最初のコンセプト出しのときから関わっていました。僕は何かあるとOSのとこまで潜っていくので、ハードを扱いつつそこまでできるエンジニアがなかなかいなくて、非常にレアなエンジニアだと思われていたようです。

——たとえばロボットを作るハードウェアスタートアップで、RTソフトウェアを取り入れることは問題ないですか?

僕としてはお試しでやるんだったら、こういうものを使ってやったほうがいいと思います。PoCを回すんだったら、あるものを使って試すのは非常によいと思います。最終的に、品質保証を自社でどう考えるかによって、それを使うか使わないか判断する必要があるとは思いますが、それはその会社によるかなと。

コロナ禍とハードウェアスタートアップ

——ここ一年、COVID-19の影響で、ハードウェアスタートアップもけっこう大変だと思うのですが、今後どうなっていくと思いますか?

そうですね、ワクチンができれば、けっこう戻ると思っていて。ワクチンができるまで会社が生き延びればいいんではないでしょうか。とにかく、死ななければなんとかなると思います。今は生き延びて、しゃがんでやれることをやって、次のチャンスを待つ。とにかく今はしゃがめと。

——ただ、このCOVID-19の影響で生活が変わり、新しい生活で生きていく人たちもいると思うのですが、そこに向けて何かするというのはありなんですか?

ニューノーマルと言われる新しい生活の中に、もちろん新しいマーケットはあると思います。一方で、ワクチンができたときに、それがどう変化するのかも大事なのではないでしょうか。ワクチン後でも残るし、意味のあることであれば、やったほうがいいと思います。そこも、時間軸ですね。

——最後に、ハードウェアスタートアップで困ったときにはどうすればいいですか?

困ったときにはとにかく、内にこもらないで外に出ろということです。とにかく誰かに話しにしにいけ、ということです。そこで解決できなければ誰かを紹介してもらう。難しいことを考えている暇があったら外に出て、もう動くしかないので。

——ありがとうございました。

文:藤倉涼 写真:山﨑悠次

*1:2021年1月10日に同研究所を退所。インタビューは2020年7月の在所中のもの。

*2:epiST株式会社(エピスト)は、「産学連携とオープンイノベーションで日本の科学技術を振興する」をミッションとするアクセラレーター。

*3:産総研が作ったロボットを制御するソフトウエア・モジュールの規格群。

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