エストニアでは既に、ロボットが荷物を配達している

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北欧に位置するエストニアは「電子国家」として世界の注目を集めています。しかし、実際の生活がテクノロジーでどう変化しているのか、その実態は不明な部分も。エストニアに移住した筆者が見る電子国家のリアルを紹介する連載第2回です。

第1回はこちら
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「人には届けたい思いがあるのです。届かなくていい手紙なんて、ないのですよ」

2018年の個人的ベストアニメは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」だった。退役軍人の彼女は両腕を義手にし、銃の代わりにタイプライターを持って様々な人の思いを代筆する「自動手記人形」と呼ばれる仕事をしていた。心を無くした彼女が、手紙を代筆するにつれて、人の気持ち、自分の気持ちを知っていく、その先に上記のようなことを言うものだから、ここは号泣ポイントだ。時間がない方は是非10話だけでもいいから見て欲しい。



ヴァイオレット・エヴァーガーデンのPV

届かない荷物

さて、実際には日本に暮らす僕たちの荷物はなかなか届かない。日本での最近の問題は、届ける側より受け取る側にある。人が家に滞在する時間が昔と比べて減っているのか、単に運ぶものが多いのか、配達員も受取人も、不在届に右往左往させられる。

僕もネットショップを多用しており、不在届をもらっては「受け取る時間を調整しなきゃ」と思いながら、なんだか後回しになり、何回も配達員の方を訪問させるという悪魔のようなことをしている。悪気があるわけではもちろんない。

この間は、弊社の日本のイベントに来たスペイン人の荷物(人間の大きさほどあるダンボール)を彼の家に送ったところ、不在だったらしく日本にまた戻ってきた。このダンボールがたどった道のり、ドラマ、配達員のいら立ち、そしてコストのことを考えると憂鬱になる。

2017年度は日本での宅配便取り扱い個数は42億5100万個で2013年度に比べると6億個も増えている。うちヤマト運輸は18億個も扱っているというのだから、悲鳴をあげるのも無理はない。僕のような受け取らない輩がいれば、怒りも湧こう。1985年度(4億9300万個)と比べると約10倍。経済成長が止まっても、物流量はかなり勢いよく増えている。

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国土交通省の資料(http://www.mlit.go.jp/common/001252227.pdf)より引用

日本はこのままだとどうなってしまうのだろうか、ヤマト運輸はじめ各物流会社の職場環境がよくなることは果たしてあるのだろうか。スマホでメッセージを受け取るくらいの気持ちで荷物を受け取れる日はくるだろうか。前置きが長くなってしまったが、エストニアに見る未来の物流に関して触れてみたいと思う。

エストニアの街を走る“ロボット配達員”

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Starship Technologiesが開発するロボット

僕がエストニアでの拠点にしているLIFT99というコワーキングスペースでは「エストニアンマフィア」と呼ばれる、Skypeを根っこに持つ企業群が存在感を放っている。自分たちがそう名乗っている訳ではなさそうだが、大きな村のようなエストニアでは次のユニコーンを目指してここから誰かを輩出していこう、という気持ちが推察される。

その一角であるStarship Technologiesのロボット配達員は、荷物を載せて実際に街中を走っている。走っているといっても歩道なので6km/hが最高速度だ。360度カメラと超音波センサーを搭載し、6輪で自由に動き回っている。



Starship Technologiesの配達ロボット

よく「ロボットごと盗まれたらどうするの?」と言われるが、考えてみて欲しい。なぜ人間なら誘拐されないのか? 通報されて捕まるからだ。このロボットは映像が送信されていて、顔もわかってしまうし、GPSで場所も明確にわかる。誘拐されそうになったらアラーム音とともに本部へ通報される。サポートスタッフは常に巡回中のロボットに何かあったら対応できるようにしている。それでもさらう人がいれば、相手が人間でもさらっているだろう。

どちらかというと僕の疑問は、どうやって荷物を受け取るのか、だ。スマホで解錠して受け取るのはいいが、やはりそれでも僕は家にいなければならない。相手がロボットでも人間でもどちらでもいいのだが、家にいなくても受け取れなければ結局不在届は発生するだろう。

荷物を受け取る“ロボットポスト”も

エストニアンマフィアは特定の業種にやたらと存在する。物流の自動運転はその一つだ。もともと家具の小売だったCleveronは、どちらかというと受け取りロッカーで有名だ。最近はこういうサービスがタリンのいたるところにある。Rimiというスーパーの横には大抵何かしらの受け取りロッカーがある。日本の駅にあるロッカーのようなものだが、自分で荷物を入れるのではなく、配達してもらって、スマホに通知が来て、その番号のロッカーを開けて受け取るという方式だ。

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Cleverの荷物受け取りロボット

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荷物を受け取るCleverBox

ただ、Cleveronが先日発表したのはロッカーではなく、荷物を運ぶ自動運転車だった。しかも受け取る方もロボ。車に宅配物を載せると公道を走り出し、家の前につくとロボットポストが出迎える。なんと車の中からは男の子心をくすぐるロボットアームが伸びてそのロボットポストの中にそっと置いていく......。これはSFだろうか? いや、これがエストニアなのだろう。



Cleveronが発表した自動運転で荷物を運ぶロボットの動画
現代にジョゼフ=ルーランはいるか

テクノロジーが行き届きすぎると、人間らしいやりとりが少なくなることに何かふわっとした危機感を抱く人も多いだろう。僕もそんな一人ではある。しかし今の宅配業界が人間らしいかというと、それも疑問だ。

ヴィンセント・ファン・ゴッホは晩年、世話になった人の家族の肖像画をよく描いていた。その家族の長はジョゼフ=エティエンヌ・ルーランといと言う郵便係だ。

ゴッホといえば、手紙好きである。弟のテオとの手紙のやりとりは彼にとっての生命線とも言えるくらい重要なものだった。そんな彼の奇遇とも言うべき郵便係のジョゼフは、彼にとって精神的な支えとなり、ゴッホが耳を切り落とした時にも家族ぐるみ付き添っていた。

今、ヤマトの配達員にゴッホを支えるような精神的余力があるだろうか?残業90時間で過労死寸前で歯を食いしばる彼らに。平成の時代に100倍になった配達量は極力自動化しつつ、本来の気持ちを届ける仕事に集中できるようにできないだろうか。本来の誇り高く、誰かを支える仕事に。

そう思いながら今日も、不在届のQRコードをスキャンしている。

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ゴッホの絵画「郵便配達夫ジョセフ=ルーラン」

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文:高木泰弘

セントラルオクラホマ大学 マーケティング専攻。リクルートを経てコワーキングスペースsharebase.InCを創業。現在は株式会社WCSの取締役CFOとしてエストニアと日本を拠点に活動。

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