小笠原治さん「投資家の話を『タメになります』と聞いているうちはダメ」──有安伸宏さん、18歳起業家の吉村信平さんが、投資家と起業家のあり方を議論

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tsumug取締役の小笠原治さん

福岡市にある官民共同型の創業支援施設「Fukuoka Growth Next(以下、FGN)」。そのFGNが創業支援体制を強化し、2019年5月31日にリニューアルオープンしました。

リニューアルを記念したイベント「RE:BORN」内のセッション「FGNからユニコーンを生み出せ!」では、eスポーツ分野のスタートアップ企業RATEL代表取締役の吉村信平(よしむら・しんぺい)さん、起業家でエンジェル投資家の有安伸宏(ありやす・のぶひろ)さん、さくらインターネットフェローでtsumug取締役の小笠原治(おがさはら・おさむ)さんがディスカッションを行いました。

小笠原さん「起業家側がユニコーンを目指すなんて言わないで」

ユニコーン企業とは、創業10年以内で10億ドル(約1250億円)以上の評価額を持つ、非上場のテクノロジー分野でのベンチャー企業を指します。代表的なユニコーン企業として知られているのは、米国のUberやAirbnb、中国の滴滴出行(DiDi)、日本のプリファード・ネットワークスやスマートニュースなどがあります。

トークセッションは小笠原さんが「起業家側がユニコーンを目指すなんて言わないでくださいね」と口火を切ってスタート。小笠原さんは、投資ファンドABBALabの代表やコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)シリーズ」を開発するtsumugの取締役、メルカリの研究組織であるR4Dのシニアフェロー、そして京都造形芸術大学では起業を目指す学生の指導に当たるなど、さまざまな形でスタートアップに関わっています。

小笠原治(以下、小笠原) 「ユニコーンを目指せ」というのは、どちらかというと投資する側の論理です。投資家の目的は、成長の見込める企業に投資して価値を高め、その企業が他の企業に買収されたり上場したりすることを通じて投資したお金を増やすこと。そしてその投資の成功を測る一つの指標として「評価額が10億ドル」があるだけなんです。投資家やファンドたちがそれぞれの投資先を比較するための指標に過ぎない、と言ってもいいくらいですね。つまり10億ドルという数字は起業家が目指す本質的な目標ではない。起業家が10億ドルを目標とするのであれば「自分たちが10億ドルの会社になったら、何ができるだろうか」を考えることが重要だと思います。

有安さんも小笠原さんの意見に同意します。有安さんは大学在学中にベンチャーキャピタリストの金子陽三さんらとインキュベーション分野での起業を経験するなど、これまでに4社の創業に関わり、うち3社の売却に成功。そして現在はエンジェル投資家として、累積で70社程度に個人として投資しています。

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エンジェル投資家の有安伸宏さん

有安伸宏(以下、有安) 投資家としては、起業家が安易に「ユニコーンを目指すぞ!」と言っているのを聞くと、怪しい予感がするんです。何がやりたいのか、何ができるのか、それを実現するには何が必要なのかなど、しっかりと事業に対するビジョンを持っていることのほうが起業家として重要です。

とはいえ、野心という意味でユニコーンを目指すことは大きな目標の一つになるし、それを目指せることも一つの才能です。僕は年間で400人から500人の起業家と会って話をしますが、その中でユニコーンを目指すと言った人は1人か2人ぐらいです。僕が投資した人だと製造業のBtoBのプラットフォーム「CADDi」を経営する加藤勇志郎さんは、かなり早い段階から明確に1兆円を目指すと言っていました。そこでどうやって1兆円を目指すの? と聞くと、理路整然と10分くらいで説明してくれたので、5分後には投資を決めました。こういうパターンもあるので、ユニコーンを目指すという野心があるのであれば絶対に言ったほうがいいですね。投資家へのアピールにもつながりますし。

18歳で資金調達、きっかけはTwitterのDM

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RATEL代表取締役の吉村信平さん

ここで話題は吉村さんのRATEL創業の経緯に。RATELはeスポーツプレイヤーの戦歴を保証したり、大会やイベントの検索、参加登録、チーム管理したりできるプラットフォーム「ePS(イーパス)」を開発するスタートアップ。FGNに拠点を置いています。創業者の吉村さんはこの春に高校を卒業したばかりの18歳です。高校在学中から福岡をベースとするベンチャーキャピタル「F Ventures」にインターンとして関わり、その経験や人脈を活かして好きなゲームの分野で起業、18歳にしてシード期の資金調達までたどり着きました。

吉村信平(以下、吉村) 最初から明確に起業を目指していたわけではありません。僕はSplatoonってゲームがすごく好きで、プレイ時間が1000時間を超えるくらいめちゃめちゃやりこんでいて、オンライン対戦の大会も自分で企画してやっていました。でもそのうちにオンラインだけではなくて、プレイヤーがリアルな場所に集まる、オフラインの大会もやりたいと思うようになったんです。でもオフラインでの大会開催はお金がかかるし、それも高校生個人が出せるような金額ではない。そこで「誰かお金くれる人はいないかなぁ」と思って、「福岡」「投資家」というキーワードで検索したんですよ。そうするとF Ventures代表の両角さんが出てきて、しかも学生に投資をしているって書いてあったんですよね。そこで「Splatoonの大会をやりたいので投資してください!」とTwitterのDMを送ったのがスタートです。

なぜゲームで起業したのかと聞かれますが、それはゲームが好きだからとしか言いようがないんですよ。ゲームでご飯が食べられたらいいなぁと、本当にそれだけなんです。

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有安 今の話を聞いていて、すごくいいなと思ったんです。だって好きなことをやるって熱中につながるし、辛くないじゃないですか。熱中できることがあるならそれに越したことはないし、熱中しているからこそ気付くこととか見えることもありますしね。自分が好きな分野で起業のテーマを見つけることができたというのはすごくラッキーですよね。30代や40代で起業を考えている人たちによくある悩みのひとつが、起業のネタが見つからないことなんですよ。

投資するなら、市場性か起業家の能力か

小笠原 しかもeスポーツの市場はまさに今伸びているところですからね。有安さんが投資をしたいと思う起業家像や投資を判断する軸ってどんなものがありますか?

有安 有名なエンジェル投資家やファンドの投資基準を調べていると、大きく2つに分かれます。ひとつは市場選択を重視するタイプ。起業家やチームも大事だけれど、とにかく領域やその市場が大事だ、という人です。そしてもうひとつが起業家やチームに重きを置く人。魅力的な人やチームが注目した領域は成長するはずだという考え方ですね。

僕はどちらかといえば「市場派」です。たとえ起業家がダメでも、すごくいい領域にいることができたら事業が伸びて成長していくんですよ。その中で起業家も、経営者として成長するんです。これは自分自身の経験でもあるし、そういう事例をもう何十人も見てきています。なのでやっぱり、いい市場にいることはすごく大事だと思います。

小笠原 僕は現在の市場はあまり重視しない方ですね。それよりも、自分が今後伸びてほしいなと思う市場にチャレンジする人に投資したい。そういう意味では僕と有安さんは逆なのかもしれません。

有安 起業家像という視点だと、やり続ける理由がある人がいいですね。強い問題意識とか原体験があって、その解決や実現のためなら10年でも20年でもこの人は頑張れそうだなと感じる人にやっぱり惹かれるし、投資したいと思います。心が折れないことって創業者としてチャレンジし続けるための資源ですからね。それがなくならなそうだな、という人に僕は投資したいです。

小笠原 その点は同じです。心が折れないことが起業家の重要な資質なのかなと考えています。ちなみに有安さんの最初の起業ってどんなところから投資を受けたんですか?

有安 僕が20代の時に立ち上げた会社は、個人としてリスクを取って、銀行融資だけで資金を調達しました。数千万円くらい頑張ってかき集めました。

小笠原 この10年だと珍しいタイプですよね。

有安 変わってるねってよく言われます。シリコンバレーに行ったときも「デット(debt、借り入れ)でやったのか! よくそんな大きなリスクを背負ったな!」とほめられました。でも最近は創業資金を無担保で貸してくれるような金融機関も増えてきましたよね。

小笠原 政策金融公庫とかね。投資と融資では期待利回りが全く違いますから、投資では限界がある分野もあるんですよ。福岡にも地場の金融機関が融資という形でスタートアップを支えるようなシステムができればいいなと思っています。例えば京都だと、スタートアップ融資に力を入れているのって、銀行ではなく信用金庫だったりするんです。

投資家の話を「すごくタメになります!」と聞いているうちはダメ

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続いて話題はスタートアップと投資家の関係性に。スタートアップ企業の成長をそれぞれの側面から支える起業家と投資家の関係はどのようであるべきでしょうか。

小笠原 起業家と投資家の関係ってよく、投資家が有利だって思われていますけど、実はそうではないんですよ。投資家からすればもちろん良い企業に投資したいわけですが、そういうところに投資できる機会は正直少ない。なので「投資させてもらう」という感覚があります。RATELは、僕が運営するベンチャーキャピタルのABBALabと、F Ventures、家入一真さんが代表を務めるNOWからの投資を受けてくれました。よく出資を受けてくれましたね。

吉村 RATELには新卒で他の会社への就職が決まっていたのに、それを蹴ってジョインしてくれたデザイナーがいるんです。これはすごく頼もしくて嬉しいことなんだけれど、経営者としては相当なプレッシャーでもあります。そんな選択をしてくれた人の生活を壊してしまうことはしたくないですからね。だから僕が経営者としてが頑張らないといけないことはスタッフが安心して働けるための資金調達だと考えていました。資金調達は自分のためというより、一緒に働いてくれるスタッフのためという感じでした。

小笠原 投資を受けるって実は結構怖いことでもあるんですよね。その後の重要な経営判断に投資家が関わってくることがあるし、誰から投資を受けたかってことが後の追加投資を受けるときに思わぬ影響を与えることがあるんですよ。

吉村 その点ではF Venturesでのインターン経験がすごく役立ちました。いろいろな事例を知ることができたし、先輩起業家からのアドバイスもたくさんもらえましたから。

小笠原 有安さんは個人で70社に投資しているんですよね。出資先との関係で気をつけていることはありますか?

有安 とにかく投資先の企業の邪魔をしないことを優先しています。僕は、希望する投資先とは月に1回くらい意識合わせのミーティングをするんですけど、そこで新しいアイデアを出したり、アドバイスをしたりするのは本当の初期段階だけですね。積極的にハンズオフしていくようにしています。

そもそもスタートアップに対して外部の投資家ができることなんてものすごく少ないんです。会社やその事業領域に関する知識って、現場の人が一番詳しいし、経験もリアルなはずです。僕はそういうリアルな情報を投資先から聞いて、自分の知識をアップデートさせてもらっています。できることといえば、今考えているリスクを聞いて、そのリスク要素をつぶしてあげることくらいでしょうか。

小笠原 それはすごく正しいなと僕も思うし、ハンズオフしていくのも同じです。投資を決めるときは、その分野について自分でもある程度は調べるけれど、できることってせいぜいその時期の状況把握ができるくらいなんですよ。1年後にはその知識って様変わりしているはずなんです。

吉村 eスポーツも、小笠原さんと出資について話していた時期とは大きく状況が変わりましたね。

小笠原 だから僕と事業に関する話をしていて「その話、すごくためになります!」と起業家から言われると、正直ちょっとキツいですよ。むしろ「小笠原さん、その情報はちょっと古いですよ」くらい言ってもらわないと。

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廃校を利用したFGNはスタートアップを目指すための小学校

イベントの最後には、FGNに望むことをそれぞれが語りました。

吉村 福岡にはやっぱり起業家が少ないと思います。特に学生起業家の数は東京と比較すると格段に少ないし、福岡の起業家と話をしていても「おっ!?」と思うような経験がなかなかないんですよ。資本政策など経営に関することはもちろん、その人のやろうとしているビジネスの分野についての話題もそうですね。なのでFGNには、プロフェッショナルな知識を持った同世代の起業家が集まりたくなる場所になってほしいと思います。

有安 FGNは廃校になった小学校を再活用した施設ですが、話を聞いていると、まさにスタートアップを目指す人のための小学校みたいだなと思いました。僕が起業したときにはこういう起業支援施設ってまったくなかったんですよ。ボロボロの雑居ビルからスタートするのが当たり前でした。雑居ビルなのでエレベーターは遅いし、混むし。トイレもフロアに男女共用で一つしかないとかも当たり前ですね。だからスタッフに男女が混ざるようになるとトイレの使い方で揉めるというのは「起業あるある」だったんですよ。でもFGNに入居すればそんな心配は不要ですよね。しかも同じ成長フェーズの企業が集まっているので、起業家やシードアクセラレーターなどの投資家のコミュニティにもなっている。僕はそのコミュニティが切磋琢磨しつつ、でも温かいものであってほしいと思います。

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廃校になった小学校を再活用したFGNには多くのスタートアップが拠点を構える

起業家と投資家ではそれぞれから見える事業の見え方に微妙な違いがあることが浮き彫りとなったトークセッションでした。FGNからユニコーンが果たして生まれるのか。入居企業はもちろん、FGNの創業支援施設としての機能にも今後注目が集まります。


文・写真:香月啓佑

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