面積161位、中東レバノンで初開催! 東西文化の交差点に息づくメイカー文化:ミニメイカーフェアベイルート2019

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4月6日、モノをつくる人たちの祭典である「ミニメイカーフェア」が、中東の小国レバノンの首都ベイルートで開催しました。初開催のベイルートでは、レバノンに根付くクリエイティブの発露や、スタートアップシーンへの真摯な意見交換が見られました。

アマチュアホビイスト発から産業界への広がりも見せる「メイカーフェア」

メイカーフェアは、世界200カ所以上で行われている、いろいろな分野でモノを作る人たちの祭典です。アマチュアのホビイスト中心のイベントですが、近年はマイクロコントローラや3Dプリンタなどといったメイカー向け産業と言われる分野によって産業界への広がりもみせており、またシチズンサイエンス(市民科学)やSTEM教育のような形で、科学技術振興の側面でも広がっています。

東西文化の交差点レバノン、実はハードウェア愛好家も多数

レバノンは中東の地中海沿いに位置する国です。面積では世界161位(10400㎢)、人口も123位(426万人)と、大きな国ではありません。両隣をシリアとイスラエルに挟まれ、物騒なニュースの多い国でもあります。

一方でシリアの首都ダマスカスの鋼を得たフェニキア人が紀元前から豊かな文明を築いてきた場所でもあり、東洋と西洋が出会う場所でもあるレバノンは、今もさまざまな宗派のキリスト教徒と、同じくさまざまな宗派のイスラム教徒が、同じぐらいの割合で住んでいる場所でもあります。

日常会話はアラビア語の変形のレバノン語、数学や物理などの高等教育は高校までフランス語、大学では英語で行われるため、大卒の多くはトライリンガルかそれ以上の言語を話します。

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メイカーフェアで撮影したどのスナップにも、さまざまな人種や宗教が混ざり合う

主催者の一人で、STEMコンピュータ教室「TECHNO Future LEBANON」を運営しているオマル(Omar)氏は、「レバノンには多くのハードウェア愛好家がいるが、残念ながらそれぞれをつないで盛り上げる動きが足りない。それをメイカーフェアでつなぐことができた。レバノン周辺の中東、北アフリカ諸国にはさらに多くのチャンスがある。そこからの出展者、参加者も多かったことで、より多くの人たちとつながることができた」とイベントを振り返ります。

工芸、テクノロジー、産業……複数のコミュニティが混ざり合う

このミニメイカーフェアは、首都ベイルートでコワーキングスペースを運営する「Antwork」、起業家コミュニティの「Berytech」ほかが主催。 総出展者80組で1日限りと、大規模なものではありませんでしたが、レバノンやベイルートの街の性質を反映し、さまざまなコミュニティが出会い、混ざり合う場所になっていました。チケットを販売して、300名以上の有料来場者が訪れたのは大成功と言えるでしょう。

レバノンは昔も今も、優れたデザイナーを輩出する手工芸の伝統のある国です。そうしたコミュニティを背景に、さまざまな手工芸が目立つイベントになっていました。

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プラズマカッターのデモがデザイナーたちに大人気

ベイルートは、21の大学がある文教都市の顔も持ちます。普段は大学内の研究にとどまっているプロジェクトが、いくつもメイカーフェアに持ち出され、来場者の目を惹いていました。

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荷物運びロボットのデモ。床に敷いた黒線をトレースし、指定地点で荷物の上げ下ろしをする

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パソコンからラジコン的に動く車。自動運転に向けてセンサー類を積みはじめた段階。

変わらないメイカーフェアらしさも

東京や世界のどこのメイカーフェアでも見かけるDIYホビイストたちも、もちろん出展しています。レバノンPCB(プリント回路基板)コミュニティのメイカーたちは、僕が中国の深センから来たことを伝えると、「『Fusion PCB』や『PCBWay』とか、深センのサービスはいつも使っているよ!」と、作った基板を色々と見せてくれました。

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レバノンのPCB設計グループたち

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自作のドローン。会場のコワーキングスペースantworkはビルの前に広い庭があり、屋内・屋外バランス良くさまざまな展示ができる空間になっていた

大学でドローンを研究する彼らは、僕がドローンにカメラを向けると、うまく撮影できるようにこちらに向けてゆっくり接近するように飛ばしてくれました。

主催のオマル氏は、「なるべく早くから声がけして、デザイナーとアーティスト、ホビイストとプロフェッショナル、それらがミックスされたイベントにしたかったが、それがうまくいった」と話します

ハードウェア企業はよりサステイナブルな会社運営を:Band Industry創業者バッサム氏登壇セッション

会場内の会議室では、終日さまざまなパネルディスカッションを開催していました。注目のセッションは世界的なハードウェアインキュベーター「HAX」の卒業生であり、Band Industryの創業者でもあるバッサム(Bassam)氏が登壇した「ハードウェアは難しい?(Hardware is Hard)」のセッションでしょう。

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Hardware is Hardセッション。登壇者はレバノンのスタートアップ、VCなど。全体で5つのセッションが行われ、僕も「オープンソースと現代社会(Open Source and Modern World)」「“善”をつくる(Make For Good)」の2セッションに登壇し、日本や中国をはじめとしたアジアのメイカー活動について意見交換しました。

バッサム氏は「Roadie」というギターのチューニングを自動化するハードウェアで17.8万ドル(初代、2013年)と50万ドル(2代目、2017年)の2つのKiskstarterキャンペーンを成功させ、順調に会社を成長させています。彼はレバノンでのハードウェアスタートアップについてこう語りました。

僕は2009年にシリコンバレーで起業し、2012年にレバノンに戻ってきた。2014年にHAXに参加して中国の深圳に行き、その後もたびたび深圳に行っている。ハードウェアそのものはもちろん深圳で製造している。プラスティックの外装、PCBのすりあわせ、無線認証といったハードウェアのエコシステムはレバノンにはないし、そうしたパートナーを巻き込んだプロトタイプを、深圳以外の場所で進めるのは難しい。


とはいえ、そうした環境は深圳ほか数カ所にしかなくて、一部の場所を除けば「レバノンに比べてどこが有利」というものではない。深圳かそれ以外、それだけ。そして、ハードウェア企業ではその製造以外にも、いろいろなパートがあって、全部キチンとやらなければならない。製品コンセプトを煮詰めるためのプロトタイピングや、世界をターゲットにしたマーケティングなら、レバノンにいても世界の他と変わらない。僕の会社にはドイツ人のエンジニアもいるが、もし僕らがドイツに本拠を置くと、会社のコストは何でもすごく高くなる。かつて会社を立ち上げたアメリカなら、もちろんもっとだ。中国の深圳だと、コストはレバノンとそこまで変わらないかもしれないが、あそこのライフスタイルは根本的なことをしっかり考えるにはまったく向いてない(笑)。


ここレバノンなら、仕事のしやすさや話を聞いてくれる協力者の見つけやすさ、コスト管理含めて、会社をストレスなく運営していくことができる。ハードウェアスタートアップがやるべきことは本当に多いから、自分がコントロールしやすい環境で仕事をすることは大事だ。

と、自らがレバノンでハードウェアスタートアップを運営することについて語ります。

さらには会場からの質問「起業家になるのは、生活のさまざまなことが変わる、かつ長い選択になると思うけど、得たものと欠点は?」という問いに対して「さまざまなことを学べて、今も学び続けていられるのが最高の報酬。欠点は、あまりお金持ちになれなかったことかな……」と答え、大きな拍手を浴びていました。

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バッサム氏とは、2014年に深圳で会って以来の再会。こういうコミュニケーションがあるのもメイカーフェアの魅力

誰でもクリエイティブに、誰もがテッキーになれる:Little Bits創業者の言葉

イベントを通じてもうひとつのハイライトになっていたのが、会場内のいたるところで開催していたハンダ付けやプログラミングといった、ハンズオンワークショップです。

レバノンや周辺諸国の政情は今もあまり安定していませんが、テクノロジーやスタートアップカルチャーは国境を超えて広がり、技術と創造力を磨くことは、世界のどこに向けてでも自分の人生の扉を開けていく行為になります。

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さまざまな年齢向けに開かれているワークショップはどれも盛況。

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マルチリンガルのレバノン人は世界中で働いています。MITメディアラボでPh.Dを取得し、世界的に有名な教育玩具のLittle Bitsの創業者アヤ・ブデール(Ayah Bdeir)氏は、その代表です。



アヤ・ブデール氏がLittle Bitsを紹介しているTEDトーク

会場となったAntworkは、さまざまな企業が入居している(ソフトウェアやサービスの会社も多い)コワーキングスペース、シェアオフィスで、内部にメイカースペース「Lamba Lab」も備えています。

そのメイカースペースの壁にはアヤ・ブデール氏の言葉、「すべての人がクリエイティブ、すべての人がテッキー(Everyone is creative and everyone is techie)」が掲げられています。目指すところが明確な、レバノンの未来を指し示す言葉だと感じました。

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「すべての人がクリエイティブ、すべての人がテッキー(Everyone is creative and everyone is techie)」

前述のバッサム氏やオマルほか、メイカーフェアレバノン中心人物の多くが、このLamba Labのメンバーで、メイカーフェアを開いたことで、さらに多くの人たちとつながり、スキルやビジネス、投資や研究などさまざまな分野に向けて参加者それぞれが可能性を広げられたことは、メイカーフェア最大の目的を達成したと言えるでしょう。

文・写真:高須正和

無駄に元気な、Makeイベント大好きおじさん。DIYイベントMaker Faireのアジア版に、世界でいちばん多く参加している。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』や『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人。 MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、早稲田大学非常勤講師。 詳細はこちら

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