米中貿易摩擦はどこまで影響しているのか──CES Asia 2019で見た中国ならではのハイテクノロジーと粗っぽさ

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毎年1月に米ラスベガスで開かれる電子機器の見本市「CES(Cosumer Electronics Show)」は、すでに40年あまりの歴史を重ねていますが、中国の上海でも、2016年から「CES Asia」を開催しています。ラスベガスのものに比べれば小規模ですが、それでもホール5個+スタートアップアリーナとカンファレンスを含めた大イベント。

ここではCES Asiaについて、米国のCESや中国で行われる他の展示会と比較してレポートします。

本家CES同様、全米民生技術協会(CTA)が主催するCES Asia

6/11-13の3日間、上海の上海新国際博覧中心(SNIEC:Shanghai New International Expo Centre)でCES Asiaが開催されました。米国ラスベガスでのCES(以下、本家CESと呼びます)と同じく、全米民生技術協会(CTA)が主催するイベントです。

規模は本家CESに比べるとだいぶ小さく、本家CES 2019が18.5万人の来場と4598社の出展社を数えるのに対して、CES Asiaは来場5万人、出展550社(いずれも見込数値)と、数分の一程度のサイズになります。

深センの展示会と違う「CESらしさ」

僕は中国深センをベースに仕事をしています。深センでは、チャイナハイテクフェアや半導体展のほか、月に2-3回以上はコンベンションセンターで大規模なフェアが開かれます。それらと「CES Asia」との大きな違いを感じたのは、”産業用機械の有無”でしょうか。

深センで行われる展示会では、展示会のタイトルがAIでもロボットでも、たいていホール一つ以上の規模で製造用の工作機械、産業用ロボットなどを出展します。HANS LAZERの工業用レーザーカッターやKUKAのロボットアーム、他にも産業用の工作機械が多く、それらは「おなじみ」として挙げられます。それに比べて、上海で開催されたCES Asiaには、そういったインダストリアルな展示は皆無で、機械油のにおいが一切せず、ここが「工場の街深セン」とは違うということをあらためて感じました。

中国の展示会らしさ、「仕立て直した華強北」

その一方で、深センや香港のコンシューマエレクトロニクス展示会と同様の「中国の展示会らしさ」も、そこかしこに顔を出します。たとえば、本家CESでも淘宝(タオバオ:中国のアリババグループのショッピングサイト)で出展しているような「取り立てて特徴のない」製品(各社よく似たBluetoothスピーカーなど)を出している会社が多く出展していますが、その手の会社は1つのホールにまとめられています。

ところがCES Asiaでは、この2枚の写真に見るように、中国を代表する大手メーカーのすぐ裏手が「小綺麗に仕立て直した華強北(※中国の秋葉原と呼ばれる場所)」のような中小企業ブースになっている光景が随所に見られます。こうしたところがなんともおもしろく、個人的にこうしたカオスな雰囲気を好ましく思いました。

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Huawei、iFlyTechといった中国を代表するテック企業が並ぶ裏には、すぐBluetoothスピーカーなどのコモディティ製品が並ぶ

目立つ「中国ならでは」の展示、AI、センサー類、ロボット

本家CESに見られる完全なインターナショナルさに比べると、やはり中国企業の展示が目立ちます。もちろん探せば日本や韓国、米国などの企業も見つかるのですが、大小を問わずたいていのブースは中国企業です。

そのなかで中国ならではのハイテク展示を挙げると、まずLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、点の距離情報をつないで二次元の面や三次元の空間を測定するセンサー。自動運転などに使われる)、赤外線、カメラといったセンサー類、そしてコミュニケーションロボットやサービスロボットなどといったロボット類が挙げられるでしょう。自動運転もここに含めていいかもしれません。

とくにLiDARは、自動運転に使うような高精度のものから、教育用も視野に入れているような安価な製品などの幅広いプライスレンジでありました。そして、よく見る、外見上は円筒形に見える赤外線などのセンサーをモーターで回転させるものから、外見上は立方体に見えるがレーザーを一定範囲に照射するものなど、幅広い製品カテゴリーで独自の開発をしている企業群が見られました。

本家CESにも出展していたSLAMTECなど、LiDAR → マップを生成するSLAMの処理に特化した専用のチップとボードを一貫して手がけている会社もあり、製品だけでなく低レイヤーの部品から高レイヤーのサービスまで展示されています。

AIやネットワークを脳に例えると、LiDAR/IoT/カメラなどのセンサー部分はネットワークの目や耳などの感覚器官にあたり、ロボットは身体にあたります。感覚器官と身体は、脳に比べると純粋な情報から遠い、ハードウェアに近い部分。AIの革新的なアルゴリズムの多くは米国から来ますが、ハードウェアに近い部分は中国が積み重ねている厚みを感じます。

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CES Asiaに合わせて発表されたDJIのロボット ROBOMASTER S1

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さまざまな配膳ロボも並ぶ

これも中国らしさ、オモシロ発明品

本家CESにも多くの中国企業が出展していますが、高額な出展費を払ってわざわざラスベガスまでやってくる企業群は「売れそうな商品」をもってきています。それに比べるとCES Asiaは、いい意味で勢いでつくりきったようなものや発売前の製品も多く、よりカオスなおもしろさを感じました。

たとえばこの人間用エアバッグは、転んで骨折する老人を救うために開発した製品で、まだ中国国内でも販売を見かけません。車用のエアバッグと異なり転ぶ前に「今まさに転びつつある状態」をあらかじめ検知して開くとのことですが、階段を急いで降りているときに開かないかヒヤヒヤする製品ではあります。

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マネキンが腰に巻いてるのが、老人用エアバッグ

スタートアップアリーナはスイステックの大量出展

本家でいうエウレカパーク(CESのスタートアップ展示ゾーン)にあたるスタートアップアリーナでは、スイス政府がサポートした、スイステックの大量出展が目立ちました。スイスは時計産業をはじめとした精密機器で長い歴史があり、今も特色ある製品を開発しています。たとえば中国DJIのドローン「Mavic 2Pro」は、スイスACP社、UBLOX社、STMicro社などの半導体チップを採用しています。また、ロボットでも有名です。

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Startup Parkはスイステックの躍進が目立つ

今回のスイステックでも、ソフトからハードまでさまざまな展示をしていましたが、HAX(深センのハードウェアアクセラレータ)出身のロボットテクノロジー企業ROVENSOも、そこで大きくアピールしていました。ROVENSOは、不整地用の多脚ロボット移動技術を提供するテクノロジーベンチャーで、他社と協力して監視用ロボットなどをつくる会社です。

旧友のROVENSO社のCEOトーマスに「米国のCESでは見かけなかったのになぜ?」と話したら、「今回スイス政府がスタートアップをサポートして、スイステックとしてまとめて出展するのに協力することにした。他のスタートアップへの声がけほか、全面的に協力している。僕らはロボットの開発を今でも深センでやっているしね。メカニクスまわりや工業系など、スイスとCES Asiaは相性がいい」と出展の理由を語ってくれました。

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ROVENSOのCEO トーマス(写真右)と、スイステックの前で

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会場でデモ中の不整地ロボ

来年のCES Asiaはどうなるか

CES Asiaは、今回はじめての参加だったのですが、前年も参加していた人から「少し小さくなった」という声も聞きました。実際にN1-N5までのホールの中で、スペースが空いて一部を閉鎖しているホールも見かけました。今回は出展者、来場者ともに重なる可能性の高い「COMPUTEX Taipei」とも、ちょうど期間がかぶっていて、これはどちらのイベントにとってもマイナスだったでしょう。

僕が知る他の中国の展示会はだいたい順調なので、今回のこのような状況は、米中貿易摩擦の影響が大きいと思われます。また、チャイナハイテクフェア(北京上海深センと年3回開催)、グローバルソースほか香港を舞台に開催される年数度の展示会、もちろん深センを中心にしたものなど、はたして国際的な展示会はどのぐらいの頻度で行えばいいのか、これについては今のところ答えの出ない問題です。

2019年で5年目を迎え、根付いたと言っていい段階に入ったCES Asia。今後も引き続き注目していきます。

文・写真:高須正和

無駄に元気な、Makeイベント大好きおじさん。DIYイベントMaker Faireのアジア版に、世界でいちばん多く参加している。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』や『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人。 MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、早稲田大学非常勤講師。 詳細はこちら

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