日本のメイカーコミュニティはアジア随一の健全さとクオリティ:メイカーフェアキョウト2019

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5月の4、5日、京都と奈良の中間にある「けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)」で、はじめての「メイカーフェアキョウト(Maker Faire Kyoto)」が開かれました。会場は日本のメイカーイベントに特有の、クオリティの高いプロジェクトと熱心な来場者であふれました。京都ならではのスポンサーブースも見ることができ、次回以降に向けて上々のスタートとなりました。

アジアのメイカーフェアに世界一参加、筆者が思う「日本のメイカーフェアらしさ」

ここ3、4年でメイカーフェアがアジア各国で開催されるようになりました。過去参加したものに限っても、日本では東京、大垣、山口、アジアではソウル、北京、杭州、西安、成都、深セン、香港、台北、新台北、新竹、台南、マニラ、ペナン、プノンペン、バンコク、シンガポールなどで開催されています。

メイカーフェアやミニメイカーフェアを名乗るには、アメリカの「MakerMedia」(日本ではオライリー・ジャパン)からライセンスを受ける必要があり、その道を歩まず自分のブランドを冠するメイカーイベントも多くあります。

僕はアジアのメイカーフェアに世界で一番たくさん参加しています。行った箇所数でも回数(毎年参加してるかどうか)でも圧倒的なはずで、2番目の人でも僕の7割は行かないはずです。その視点から見た日本メイカーフェアの特殊性は、以下の2点だと思っています。


・出展物のクオリティの高さ
・出展者の多様さ

どちらも日本のメイカーコミュニティの健全さと規模を、別の言葉で言い換えた言葉かもしれません。

僕はメイカーフェアシンガポール、深セン、台北や上海メイカーカーニバルなどで運営の手伝いをしています。手伝いで一番期待されて時間を使っているのは、招待メイカーの招聘やアレンジで、それらの国では「メイカーフェアというのはどういうものです。ぜひ出展を」という声がけをたくさんしないと、フェアに出展者が集まりません。そのため出展してくれる人々は、主催者の何かしらのビジネスパートナーや昔からの知り合いが目立ちます。

今回のメイカーフェアキョウトの出展者はおそらく200近く、それでも出展できなかったメイカーがいたと聞きます。「NT京都」や「NT金沢」といった歴史のあるニコニコ技術部のメイカーイベントも100近い出展者を集めます。シンガポールや深センのように数年やっているとコミュニティが育ってくるのですが、「集まりすぎて限られた場所に配置するのが一苦労」というのは、日本のほかにはごく少数のメイカーフェアだけにしか見られない、贅沢な悩みです。

上海メイカーカーニバルを運営する「DFRobot」のレイチェルは、ベイエリアと東京を比較して「日本のほうが5倍ぐらいすごい」と言います。彼女は会社と交渉して時間を確保し、ほぼ自腹でメイカーフェアキョウトに参加。上海メイカーカーニバル(2019年は10月18〜20日)の声がけをさまざまなメイカーにしていました。

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右が上海からやってきたDFRobotのレイチェル。京都産業大平井研究室のブース前でご機嫌。大学の研究室が多く出展しているのも日本のメイカーフェアの特色。

海外のメイカーフェアではまず見られない圧倒的な作り込み



この巨大ダンボールロボット「Craftel EX」は、吉田 翔氏が数年にわたって作っている、風で動くロボットキット、Craftelの巨大化版。僕がはじめて吉田さんと会ったのは2016年12月のメイカーフェア成都(中国)で、同じく京都から招聘した「音楽演奏ロボットこさんくん」の展示サポートをしていたときでした。

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メイカーフェア成都でのこさんくんと、サポートに来ていた吉田さん。半年もたたない、2017年5月のメイカーフェアベイエリアではもうキットができていて、子どもたちには大ウケ。優れたプロジェクトに与えられるブルーリボン賞も受賞していた。

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メイカーフェアベイエリア2017、ブルーリボン賞を受賞したCraftel (写真提供:Sho Yoshida)

以降、さまざまなメイカーフェアで見るたびに、Craftelはアップデートを続けてきています。こさんくんも、年に3、4回は世界各国のメイカーフェアで見かけますが、そのたびにロボットが増えたり、おみくじなどの来場者が楽しめる機能を追加したりしています。今回のメイカーフェアキョウトでは、紙製のロボットバンドも登場しました。

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京都でのこさんくんは、ロボットバンドに加えて紙のロボットたちも展示されていた

2016年のメイカーフェア成都では、同じく日本から招聘されたロボットプロレス「できんのか!」も黒山の人だかり。人気ロボットレスラーの一つ「トコトコ丸」を制作していたメイカーは、今回のメイカーフェアキョウトに「TICTAC Lab」として、「ワガラサウルス」「ワガラ戦車」を展示していました。

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メイカーフェア成都でのロボットプロレス



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2機並んだワガラサウルスとワガラ戦車。ボディーパーツや、全体の造形が美しい

動画で確認できるなめらかな動き、それぞれのパーツの美しいデザインなど、工芸品のような作り込みは、他の国のメイカーフェアに展示されているロボットでは、なかなか見られないものです。

着々と、世界に根付きつつあるメイカー文化

以前、レバノンのメイカーフェアの様子をお伝えしたように、メイカームーブメントは着々と世界中に広がっています。一方で「第3の産業革命」と言われた国や資本によるブーストは一段落しました。

2014年にホワイトハウスでオバマ大統領(当時)がメイカーフェアを開いたのに続き、中国では大衆創業・万衆創新(大衆による創業、万人によるイノベーション)というスローガンが叫ばれました。インテルもガリレオシリーズ他のメイカー向けマイコンボードを出すなど、2013〜2017年はメイカームーブメントがバズワードとして盛り上がった期間と言えるでしょう。

その後、世界の多くのメイカーフェアでゴールドスポンサーだった各地のインテルが、マイコンボードの終了とともにスポンサーも終了したことで、バズワードとしてのメイカーフェアは一段落したと言えそうです。公式発表ではありませんが、世界最大のメイカーフェアであるメイカーフェアベイエリアの開催が今年で最後になるというSFクロニクルの記事も出ています。(デール本人にも確認したのですが、財政や政府サポート的にはそうなりそうとのこと)

一方で、メイカー教育を通常のカリキュラムに取り入れられる国は増えています。メイカーフェアや同種のイベントは世界でも拡大を続け、国や大企業のブーストを離れて安定成長を続けているように見えます。言い換えれば、「ものづくりを楽しむ、作りたいものを作る」という言葉が、布教する必要がなくなって一般化したと言えるかもしれません。「毎月いろいろなメイカーフェアに出ている」という友達も、とくに僕と同種のメイカー向け企業で働いている人たちをはじめとして増えてきました。

日本のメイカーフェア、次のステージに向けて


日本では大企業や行政からのブーストが目立たずにメイカームーブメントは拡大を続けてきましたが、今年のメイカーフェアキョウト、2020年2月の「つくばミニメイカーフェア」といった、公的機関がサポートするメイカーフェアも増えてきています。

メイカーフェアキョウトの会場になった、けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)は、産学公連携のプロジェクトであるけいはんな学研都市の中にある、財団法人が運営する半公共施設です。初日の懇親会では京都府の山下晃正副知事が登場し、「この施設にここまで人が来てくれたのは記憶にない」とコメントを寄せ、自分自身も真空管をいじってものづくりをしていることを明かして出展者から拍手を浴びていました。

運営に公的機関が協力することは、会場提供の自由さや、各種学校をはじめとするパブリックセクターの協力を含めたさまざまなメリットがあります。高専ロボコンやニコニコ超会議などでは、パブリックセクターと企業がともに運営しています。ものづくりが当り前になるというのは、そうしたさまざまな階層が、それぞれの立場ならではのメイキングをし、メイカームーブメントに関わっていくことでもあります。

同日程で京都市内の町家で行われた「趣味TECH祭」では、メイカーフェアキョウトとまた違った形の出展者が見られ、エコシステムが成長しているのを感じました。2019年になってからニコニコ技術イベントも熊本、広島と増加しています。日本のメイカーズのエコシステムは、今も発展中と言えそうです。

文・写真:高須正和

無駄に元気な、Makeイベント大好きおじさん。DIYイベントMaker Faireのアジア版に、世界でいちばん多く参加している。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』や『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人。 MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、早稲田大学非常勤講師。 詳細はこちら

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