フィリピンの急激な成長とそれを支えるDIY文化の精神──3回目のマニラ・ミニメイカーフェアで見えてきたこと

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3年間で3倍に拡大。150の出展者と4000あまりの来場者を備えた堂々たる規模のマニラ・ミニメイカーフェア

4月22~23日、フィリピンの首都マニラで3回目になるミニメイカーフェアが開かれました。会場になったマインド・ミュージアムは子ども向けの科学館で、サイエンスの体験型展示をしています。150組の出展者を集めたミニ・メイカーフェアは、南国フィリピンらしい陽気さとデザイン、そして新興国ならではの未来への期待に溢れた、心温まるものでした。



Witech(Women in Technology)の人たち。ステージ前のスピーカーで音楽がかかると、展示と関係ないのにずっと踊っていた。

メイカーフェアの行く末が心配されるも、アジアのメイカーブームは教育市場を中心にますます好調

アメリカ・メイカーメディア社の財務破綻、それに伴うMake:Blogの更新停止と、メイカーフェア・ニューヨーク2019の停止が大きなニュースになりました。まわりのアジアメイカーたちや、僕自身も大きく心配しています。

その一方で、アジア全体のメイカーイベント熱は高まっています。「メイカーフェア」とはアメリカのメイカーメディア社に承認され、ライセンス料を支払っているものを指しますが、それ以外のさまざまなメイカーイベント、たとえば上海のメイカーカーニバル、2019年はメイカーフェアから独自のブランドを冠することにしたシンガポールのメイカーエクストラバガンザ(Extrabaganzaとは科学関係の見本市を指す、EXPOとかと意味が近い言葉)など、イベント数も出展者数も増加しています。

世界がインターネットによってフラット化され、「どこの国に生まれたか」よりも「国際的に通用するスキルを身につけて活動できるかどうか」が重要になりつつある社会状況は、発展途上国でより顕著になってきています。マニラのメイカーフェアでも、教育関係のブースが目立つのもそのためでしょう。

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マニラ・サイエンスハイスクールのマリオン(赤い服の女性)が展示していたのは、老人の杖をより安全にするためにライトやGPS、アクティビティトラッカーなどを仕込むプロジェクト。学会でポスター発表すると同時に、起業を目指してプロトタイプを重ねているとのこと

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Scratchで制作したゲームを展示していた学生たち

「私たちは豊かな国ではない」──急激なフィリピンの経済成長に見るMaking文化再生の意味

2017年の第1回は50、2018年は100の出展者だったマニラ・ミニメイカーフェアは、今年2019年には150の出展者を集めました。大垣のミニメイカーフェアとさほど変わらない規模です。2日間で無料ながら4000名を超える来場者を集めたマニラは、いつ「ミニ」ではなくなってもおかしくない段階までムーブメントを広げました。

会場のマインド・ミュージアムのキュレーターを務めるマリベルは、メイカーフェアを開いた狙いをこう語ります。

「Makingはフィリピン人にとってずっとサブカルチャーだった。私たちは豊かな国ではない。ものを拾い集めて新しいモノを作ること、今あるものを直して使い続けることについてずっと工夫してこなければならなかった。Makingはその意味で自然で、しかし今はもっと広くテクノロジーを利用できるようになった。昔は専門的なギルドにいないと学べなかったことが、今はお互いだけで学び、しかもよりよくしていける。このサブカルチャーの作り直し、Making文化の再生こそが、私たちがフィリピンでやりたいことだ」(マリベル)

彼女が働くマインド・ミュージアムは、お台場にある日本科学未来館にあたるような体験型の科学学習施設。大人995ペソ、子ども475ペソ(それぞれ2000円、1000円程度。1ペソは2.1円)と物価に比較すると高めですが、土日のメイカーフェア会期中も多くの親子連れや子どもたちだけのグループで盛り上がっていました。

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マインド・ミュージアムは子どもたちでいっぱい

フィリピンの経済は豊富な若年人口とIT化を背景に急速な発展を遂げています。会場になったマインド・ミュージアムの周辺、ボニファシオ地区は、まるでシンガポールのように近年建設された高層ビルが並び、深夜まで女性が独り歩きできる程度の治安のよさが保たれています。日本や欧米のショップを含めた多くの路面店には、地元の富裕層が普段からおいしい食事を楽しむ姿が見られます。

そうした街の洗練と発展は、アジアのメイカーフェアにいちばん参加している自分から見ても意外でした。フィリピンには何度かリゾートに訪れたことがありますが、首都のマニラははじめてです。

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新築の高級コンドミニアム、ピカピカのショッピングモールが立ち並ぶボニファシオ地区。夜も人々が行き交う様子から治安のよさがうかがえる

パフォーマンスやハンドクラフトなどをメイカーフェアに取り入れた見事なオーガナイズ

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フィリピンに伝わる山刀。刀鍛冶の彼は日本刀にインスパイアされて改善を重ね、会場では据え物切りのパフォーマンスをしていた

とはいえマニラには、Googleのような巨大ソフトウェア企業も、Huaweiのような巨大ハードウェア企業もありません。英語話者の多いフィリピンだけに優秀なエンジニアは海外で活躍する例が多く、年々プログラマーの数は増えているとはいえ、スタートアップで知られる国でもありません。

その一方でマリベルの話にもあったように、手作業やハンドクラフトの伝統はあります。メイカーフェアの中には多くの販売ブースがあり、そこでは手製のハンドソープや革製品、靴などが販売されています。彼らはプロのショッパーですが、創造性があり自分たちで作っているショップたちが集められているので、さながら日本でいうデザインフェスタのようにも思えます。そうしたブースを含めることで、イベントとしては見事にキュレーションされていたと言っても過言ではないでしょう。

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ボニファシオ地区のショッピングモールには手作業アートの店も入っていて、ボニファシオ・アート・アルティザンとして何組もメイカーフェアに出展している

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廃物を家具にアップサイクル(再利用のリサイクルに対して、よりよくすることを指す新語)するデザイナーショップ

ユルさと楽天的なところもマニラの魅力、日本にないものがある

他のメイカーフェアに比べると少なめですが、テクノロジーが表に出たプロジェクトもいくつも出展されています。個人的にいちばん感激したのは、中古のパソコン用CD/DVDドライブを3つ集めて、XYZそれぞれの軸に当てはめ、それを3Dプリンターにしたプロジェクト「rebelmaker」。パソコン用のAT電源をそのまま使っているのもグッと来ます。

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rebelmaker。40mm四方の立方体をプリントできる。作り方はwebサイトで非常に丁寧に公開されている

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マニラのテックスタートアップkumu。ライブストリーミングとライブコマースを組み合わせたサービスを運営している

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フィリピンから深センに移って起業したガジェット・ラボ社のArduinoアンプシールド。ハードウェアスタートアップだ

いくつかのスタートアップや学校関係のブースが日曜になるとあっさり姿を消していたり、会場の案内が聞く相手によって違ったりと言った発展途上国なりの雑さは、もちろんあります。

たとえば下の写真にある、ローターガードもつけてないドローンにモーターで回転するPOVを吊り下げ、かつ群衆の上を飛行させるパフォーマンスも成熟した国ではさまざまな理由でアウトでしょうし、もし事故が起こったらこの国でも問題になると思います。メイカーフェア全体が危険なわけではなく、Drone Philippinesの人たちはこのパフォーマンスを何度も行っていますし、プロポを人に渡したりせず、操縦者の他に何人かで安全確保をしていました。(日本ではそれでも飛ばせないと思いますが)

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Drone Philippinesの、DJI PhantomシリーズにPOV LEDを吊り下げて空中に文字を描くパフォーマンス

また、会場内の別の部屋で小型ドローンによる体験操縦が行われていましたが、そちらは十分な安全確保がされていました。基準は違えど、「何も考えていないわけではない」と私は感じました。そうした社会や組織のスキマは、ある種のイノベーションを生み出す余地でもありますし、私自身が外国のメイカーフェアを訪れるときに、「普段の環境ではまず見れないような何か」を求めているのも事実です。

マニラのメイカーフェアは、全体としてすばらしい明るさに満ちていました。東京や関空からは飛行機も安く多く飛んでいますし、周辺には魅力的なリゾート地がいっぱいあります。2020年は日本からの訪問者が増えることを望みます。

文・写真:高須正和

無駄に元気な、Makeイベント大好きおじさん。DIYイベントMaker Faireのアジア版に、世界でいちばん多く参加している。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』や『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人。 MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、早稲田大学非常勤講師。 詳細はこちら


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