未来の住まいは“長屋的”──鍵の役割は安心から信用へ:tsumug × VUILD クロストーク

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左から、池澤あやか、秋吉浩気さん、牧田恵里

tsumugでは「未来の鍵を創る」ことを通して、常に「未来の住まい」について考えています。鍵を安全にシェアできたら叶うこと、つまり人が他人の家に自由に安全に出入りすることができたら、コミュニティや生活スタイル、そして経済はどのように変わっていくのか——。

tsumug(ツムグ)のCEOである牧田恵里とVUILD代表取締役の秋吉浩気(あきよし・こうき)さんによる対談です。前回はVUILDが展開するサービス「EMARF」に込められた設計思想や、建築家と起業家の関係に触れました。今回は、それぞれの自社サービスが住まいや生活をどう変えるのか、その具体的な構想を聞きました。
(聞き手・執筆 池澤あやか)

前編はこちら
edge.tsumug.com

「未来の住まい」とそれを取り巻くコミュニティ、生活スタイル、経済をどう描くか

——これは両者にうかがいたいことなのですが、自社のサービスを通じて、未来の住まいをどうアップデートしていきたいと考えていますか?

秋吉 これはもともと「VUILD」という会社名に込めた思いにも通じるところなのですが、「生きること(vi)」と「建てること(build)」の語源は一緒です。それくらい、昔は両者の距離が近かったし、「建てること」も個人や地域の手にあったと言えますが、分業化が進んでしまった今、両者がほぼ分離してしまった。

「ものづくりはじぶんづくり」と言われるように、空間と精神は相互に影響し合います。EMARFというサービスは、分業化によって奪われてしまったものづくりを個人や地域の手に取り戻し、精神的にも空間的にも豊かな暮らしを支えるような存在になりたいと思っています。

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——牧田さんはいかがですか?

牧田 tsumugの最初のビジョンって「世界中どこでもフラフラ行けるような世界にする」という個人の願望だったんですよ。

これからの時代って、決まりきった仕事の自動化が進んで、働く時間が減って、相対的に体験の価値が高くなっていくと思うんです。そうすると、人はもっと移動するようになって、家のカタチも変化するんじゃないか、というのが私の仮説です。家族というひとつのコミュニティが生活する旧来型の家ではなく、個人も複数の家に属し、家も複数コミュニティでシェアするようなスタイルが増えてくるんじゃないかと。

tsumugのサービス「TiNK(ティンク)」は、こうした未来の暮らしを鍵という側面から支えていきたいと思っています。

秋吉 長屋的なコミュニティによって柔軟に変化する空間、すごくおもしろそうですね。ドアや壁、天井っていう概念すら変わっていくんじゃないですか? TiNKでやっていることは、そんな建物や空間のあり方を変えるテクノロジーなんじゃないかと思います。

1000年変わらぬ鍵、「安全」から「信用」のためのツールに

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牧田 鍵のすごくおもしろいところは、鍵穴に鍵を挿してテコの原理で開けるという形式のまま数千年間変わってないところ。物理的には形を変えていない鍵を、tsumugではもっと概念的に捉えるようにしています。概念的に言うと、鍵って所有者が使う機能である「Lock」を利用者の「Key」で認証して開けるということなんですよね。

これまでの鍵は、家を悪い人から守るために「セキュリティ」が重視されてきましたが、本当は自分と自分の信頼する人が使う場所にアクセスする認証ができればいいので、「トラスト(信用)」のためのツールであるべきだと思っています。実は「TiNK」というプロダクト名は、そういった思いを込めた「Trust Link」の略なんですよ。

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秋吉 牧田さんの宮大工に憧れてた話ともつながっていきそうですね。鉄骨コンクリートは各接合部がガチガチの世界なのに対して、伝統木造はゼロでもイチでもないグラグラのところでバランスを保って成立している世界なんですよ。そういう柔軟性のあるものに対する憧れなのかなって。

牧田 秋吉さんにさっき『長屋的』って言われたのがかなり嬉しくて。そういう柔軟性あるコミュニティにすごく憧れがあるんですよね。

秋吉 コントラクト(契約)はもちろんあるんだけど、それを意識せずにやりとりできることに、TiNKの価値があると思う。責任の所在がわかるからこそのオープンネスみたいな。長屋の場合も「あそこの家に借りがあるから、今度お米を持っていこう」みたいな、共同体の約束事に対する認識のようなものがあるからこそのゆるやかなコミュニティなのだなと思います。

所有とシェアの違いは、手元にある期間の長さの違いでしかない

——所有とシェアの違いについて、牧田さんはどう考えられていますか?

牧田 所有とシェアの違いは、手元にある期間の違いでしかないのかなって思っています。「変化しないでいてほしい」と思っている期間の違い。

秋吉 もしくは、変化するスピード感の違いなのかもしれない。たとえば、建築、土木になると百年や千年スパン、身体に近いファッションやメイクになると一日スパンといった具合に、身体との距離感に応じて更新が必要なタイムスパンが変わってきます。

僕も建築業もやっているので「移動する住居」というのがテーマに与えられたりすることもあるけれど、どちらかというと百年や千年スパンでその土地の風景に馴染むかどうかということを考えて設計しています。

「気分に合わせてファッション変えたい」は、あるかもしれないですけど、「気分にあわせて建物変えたい」はなかなかないですからね。

しかし、建物の内部はより身体に近い部分なので、もう少し短いスパンで更新できることを意識しています。

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牧田 たとえば、髪を切ると気持ちがスッキリするように、変化というものは気持ちのよいものなのかなあと思っていて。その土地の建物自体を変えるわけではありませんが、そろそろ自分の身を置く建物や場所を変えたいなあと思ったときに、もっと気軽に点々と違うところに住めるのはアリですよね。

秋吉 さっきの時間軸の話で言うと、本来、風景の変化は百年や千年かけて行われるけれど、移動や旅によって、突然自分の中に違う風景の時間軸が割り込んでくる。だから、感覚を更新するような新鮮さがある。それが、移動や旅のおもしろさなのかもしれないですね。

牧田 最近鼓(つづみ)を習いはじめたのですが、伝統芸能における所有の概念は、世代を超えて長いなと。基本的には鼓は、膜は変えるけど胴は買い換えず、師匠からお借りしたり、譲り受けたりすることが多いんです。私のお師匠さんが先代から鼓を譲り受けた際に、一年経ってようやく手になじんてきて鼓から所有されることを認められた感覚に陥ったという話を聞いて、所有という概念の奥深さを感じました。

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秋吉 伝統に照らし合わせて考えると、急になにかしらのヒントが見つかったりしますよね。「EMARF」(エマーフ、VUILDがリリースした家具などの木製製品のオーダーメイドサービス)をつくる上でも、そういった伝統に立ち返って考えることはよくあります。

たとえば、伝統芸能では「型」を身体に染み込ませて、踊りという「形」を表現するけれど、同じ型で踊っているのに、踊る人によって全然見え方が違いますよね。EMARFでは、家具の基本の型を提供しているので、そこから工房や木を選んだり、パラメーターをいじったりして、思い思いの形をつくってほしいと思っています。

そこから更に望むならば、型を脱して、それぞれが思い思いの形を表現してほしい。EMARFを超えて、主体的にものづくりを楽しむ人口が増えてほしいと思っています。

牧田 まさに守破離! EMARF、すごいですね。

——たしかに、ものづくりの視点とサービス設計の視点から見た「所有とシェア」の違いは興味深いです。個人的にも、おふたりにはこうした意見交換を通じて、さらに刺激的でおもしろい未来を描いていってほしいなと思います。今回はどうもありがとうございました!

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edge.tsumug.com

文:池澤あやか

1991年7月28日 東京都出身。第6回東宝シンデレラオーディション審査員特別賞受賞。タレントとしてTV番組への出演やメディア媒体への寄稿などを行う一方、エンジニアとして、Webサイトの制作やプロトタイプアプリケーションの開発に携わっている。

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