「働き方改革」が叫ばれている。長時間労働の抑制が重視され、テレワークなど柔軟な働き方の導入や副業が推奨されている。だが、「仕事の量や権限は変わらないのに、仕事時間だけ減らせと言われ困っている」「働いている企業で、副業が認めてもらえない」――そんなビジネスパーソンも多く、「働き方改革はかけ声倒れだ」という指摘もある。
そんな中、tsumug(ツムグ)は「新たな働き方改革」を考え、実践している。同社のエンジニアや総務、広報担当者など、すべてのメンバーは、正社員ではなく業務委託のいわば“外注”で、オフィスのある東京だけでなく福岡や金沢など、日本各地でリモートワークを行っている。複数の企業で就労しているメンバーも多い。
「正社員ではなく業務委託にすることで、コストを削減しているだけでは?」。そう疑う人もいるかもしれない。だが、各部門のトップ(「オフィサー」と呼ばれる)は大きな予算と権限を持ち、それぞれのチームをマネジメント。予算内なら自分の報酬は自分で決められるし、機材が足りなければ購入でき、人が足りなければ採用することもできる。予算は年初に立てて分配。オフィサーの定例会議には、ビデオチャットツール「zoom」も活用し、予算の進捗などを報告し合う。普段のコミュニケーションにはSlackを利用している。
オフィサーは大きな責任と権限を持っているため、「tsumugのメンバーである」という意識も強い。その一方で、正社員に適用されるルールに縛られず、仕事時間や場所、副業も自由に選べる。
例えば、モバイルアプリなどの開発を担当するサービス部門オフィサーのkeyさんは、自らの報酬と、モバイルアプリ開発チームの人件費を合わせた予算を自由に動かせる。勤務は週3~4日。普段は秋葉原のオフィスで働いているが、たまにキャンプ場でリモートワークすることもあるという。
tsumugでの働き方についてkeyさんは、「必要十分な予算と権限が割り当てられており、さまざまな分野のエンジニアリングスキルを体感しながら学べることに価値を感じています」と評価する。
同社がこんなユニークな人事体制を構築した背景を、牧田恵里社長はこう語る。「高い能力を持った人に、当社にジョインしたいと思ってもらえる仕組みを作りたかった。かつては会社の『人』で悩むことが多々あり、マイクロマネジメントしようとしていましたが、それでは人は動かなかったので、今は適切な権限移譲を重視しています」。
tsumugのオフィサーは「ひとりひとりが経営者のようなイメージ」だ。「小さなベンチャー企業でも、自分の領域で責任を持て、自分の時間の使い方についても裁量を持って動ける人を増やしたいと思っています」(牧田社長)。
ただ、多くのメンバーがフルタイムで出社せず、リモートワークも多いとなると、マネージメントやコミュニケーションが難しくなるのではないか――。そんな疑問を牧田社長にぶつけると、「リモートでもコミュニケーションしやすいよう、zoomを活用したり、Slackでリアクションを増やしたり、いつ話しかけられても反応できるようにしたりと、私自身も工夫している途中です」とのことだ。
スタートアップながらオウンドメディアを運営し、メンバーを紹介している。メディアを通じてメンバーの活躍を紹介することで、その人を他の企業にも知ってもらい、活躍の幅をより広げてもらいたいと考えているという。「『人生の限られた時間の中で、いろいろなプロジェクトに関わりたい』と考える人が増えていると感じています」(牧田社長)。tsumugにコミットしてもらいながらも、パラレルキャリアを実現できる体制を整備しようと腐心する。
優秀なメンバーにコミットしてもらうには、どんな働き方を提示すべきか――tsumugは試行錯誤しながら、独自の「働き方改革」の実現に挑戦している。
文:tsumug edge編集部